コラム

2020年、世界は「中国の実力」を見せつけられた

2021年02月17日(水)17時10分

客のQRコードで示される「健康コード」をチェックするショッピングセンターの係員(2020年3月30日) Aly Song-REUTERS

<中国で言論の統制や人権の抑圧が行われていることは事実だが、新型コロナウイルスの流行を抑え込み、コロナ経済危機の克服にも成功したことは率直に認めなければならない>

2020年の日本のGDPは前の年に比べて4.8%のマイナス成長となった。金額でいうと539兆円である。アベノミクスの目標であった「GDP600兆円」にはついに届かずじまいとなった。

一方、中国の2020年のGDPは101兆6000億元(約1570兆円)。2010年に比べてGDPを実質で2倍にするという目標はコロナ禍の影響で達成できなかったが、それでも日本のGDPの2.9倍である。中国がGDPの大きさで日本を抜いて世界第2位になったのは2010年のことである。それから10年でこんなに大きく差がついてしまった。

中国が日本を抜いた時には日本でけっこう話題になった(注1)。当時、テレビの街頭インタビューで日本のサラリーマンが「(日本が中国に抜かれて)ショックです」と答えていたのが印象に残っている。だが、その後日本と中国の経済規模の差が拡大していったことに対して日本のメディアや一般国民が危機感を強めていったかというとそうでもない。むしろ、「どうせ中国の公式統計なんて当てにならないでしょ」と言って、中国の経済成長という現実を認めない傾向が日本で強まってきたように感じる。

そうした中国の公式統計に対する不信感を醸成するうえで本コラムも多少貢献してきたかもしれない。「GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題」(2020年7月10日付)では地方政府によってGDPの水増しが行われていたことを指摘したし、「中国・国家統計局長の解任と統計の改革」(2016年2月8日付)では、中国全体のGDP成長率の水増しを含む中国の統計のさまざまな問題点を論じた。

そのように政治的なバイアスがかかりやすい中国のGDP統計のことだから、自国の成功をアピールするために外国に対して自国の経済を大きく見せようとするに違いない、と人々が思ったとしても無理はない。

統計の水増しではない

しかし、そのようなことはありえない。というのも、自国のGDPを外国のそれと比較する場合には、自国通貨で測ったGDPを為替レートで米ドルなど他国通貨に換算しなければならないので、GDPをいくら誇大報告しても、為替レートが下がってしまったら帳消しになるからである。外国に対して自国のGDPを大きく見せるには為替レートを高く保つ必要がある。だが、そんなことをすれば輸出がしにくくなって貿易赤字になってしまう。虚勢を張るためにそんなに大きな犠牲を払う国などまずないだろう。

いや中国はアメリカのトランプ政権によって「為替操作国」に認定されたではないか、と反論する人がいるかもしれない。たしかにそれはその通りだが、アメリカが主張しているのは、中国が輸出を増やすために為替レートを不当に低く抑えているということである。つまり、アメリカは、中国の為替レートは本来はもっと元高になるべきだと主張しているのであり、その主張の通りであれば、中国のGDPは外国のそれに比べていっそう大きくなる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領、トランプ氏と電話会談 関税撤回を要

ビジネス

米年末商戦のオンライン売上高、5.3%増と伸び鈍化

ワールド

米イリノイ州、トランプ政権を提訴 シカゴへの州兵派

ビジネス

IMF、新興国の経済耐性向上を評価 政策枠組みの改
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿すると「腎臓の検査を」のコメントが、一体なぜ?
  • 3
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレクションを受け取った男性、大困惑も「驚きの価値」が?
  • 4
    一番お金のかかる「趣味」とは? この習慣を持ったら…
  • 5
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃の「オーラの違い」が話題…
  • 7
    「不気味すぎる」「昨日までなかった...」ホテルの天…
  • 8
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 9
    監視カメラが捉えた隣人の「あり得ない行動」...子供…
  • 10
    逆転勝利で高市早苗を「初の女性宰相」へと導いたキ…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 7
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 8
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story