コラム

アジアで「ウクライナ戦争」のような危機が起きるのを防いだ、安倍元首相の功績

2022年07月09日(土)20時18分

「日本とアメリカはともに相対的に衰退している」

安倍氏は外交に不可欠な対人関係を構築する能力に秀でている。16年11月、問題児のドナルド・トランプ氏が米大統領選に当選するや否や、安倍氏はトランプタワーに駆けつけ、ゴルフクラブを贈呈、いち早く信頼関係を構築した。まだ正式に政権が交代する前に次期大統領と会談した行動は一部から顰蹙を買った。

しかし、これで「シンゾー・ドナルド」の蜜月関係が築かれていなかったらアジア太平洋もロシア軍のウクライナ侵攻のような安全保障上の危機に見舞われていた恐れは十分にある。トランプ氏は安倍氏の訃報に接し「彼は日本を愛し、大切にする人であった。彼のような人は二度と現れないだろう」と語った。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は国内総生産(GDP)の2%という北大西洋条約機構(NATO)の防衛費目標を無視し、バルト海の海底を通ってロシアの天然ガスをドイツに送るパイプライン計画「ノルドストリーム2」を進め、トランプ氏を激怒させた。エマニュエル・マクロン仏大統領に至っては「NATOは脳死状態」と呼び、綻びを露呈させた。

ジョー・バイデン米大統領は米欧分断の修復に努めたものの、プーチン氏の領土的冒険主義を止めることはできなかった。ロシア産原油・天然ガスに依存する独仏伊の欧州主要国はロシアがウクライナに侵攻しても、いずれは妥協するとプーチン氏に思わせてしまったからだ。防衛・安全保障の要は安倍氏が実践したようにスキをつくらないことだ。

米紙ニューヨーク・タイムズで知日派のデービッド・サンガー記者は「安倍氏が、アメリカが戦後制定した日本の現行憲法に基づく制約を緩和しようとしたのは、日本がかつてないほど同盟国のアメリカを必要としていることを認識していたからだ。同盟を結ぶということは相互に防衛の義務を負うということだ」と記している。

「安倍氏は、日本政治に詳しい米マサチューセッツ工科大学のリチャード・サミュエルズ教授が言うように『日本とアメリカはともに相対的に衰退している』ため、その才能と資源を組み合わせなければならないことを知っているようだった。そして『この関係はうまくいかなければならない』と安倍氏は結論付けた」と結んでいる。日本も戦力不保持をうたった憲法9条を変える時が来ている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物が再び100ドル突破、米のホルムズ海峡封鎖

ワールド

ペルー大統領選、ケイコ氏が得票率16.6%でリード

ビジネス

米財政赤字、3月は2%増の1640億ドル イラン戦

ワールド

ハンガリーで16年ぶり政権交代、オルバン氏与党敗北
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけ…
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 7
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 10
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story