コラム

戦争ですり潰される若者たちの命...ウクライナの最前線で散った24歳の「英雄」

2022年06月21日(火)17時17分
キーウでの弊誌の公葬

独立広場で営まれた24歳の戦死者の棺に弔花を手向ける市民(筆者撮影)

<最前線で犠牲になった24歳の男性の公葬では、キーウ市長が「彼のような人物は民主的なウクライナの未来」と表現。戦争の長期化とともに、その未来が失われつつある>

[キーウ発]ロシアとの戦争はどこまで泥沼化するのか。2014年、親露派ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(当時)を失脚させた「マイダン革命」の舞台となったキーウのウクライナ独立記念碑前で6月18日昼、最前線で犠牲になったロマン・ラトゥシニ氏(24)の公葬が営まれた。ウクライナ国旗をまとった若者ら数百人が集まり、棺に弔花を手向けた。

これに先立つ礼拝で、キーウのビタリ・クリチコ市長は「友よ。キーウとウクライナにとって悲しい日だ。今日、私たちは祖国の英雄に別れを告げなければならない。ロマン・ラトゥシニ、若くて賢くて行動の人。名誉と原則の人。それが私の知る彼だ。ウクライナは君のことを忘れない」と、そっと棺の上に手を置いた。クリチコ氏は元ボクシング世界ヘビー級王者として知られる。

「彼は勇敢で、誰も恐れなかった。脅されても隠れることはなかった。ロマンはロシアの大規模な侵略からウクライナを守るため最初から最前線に向かった。出陣の前に市庁舎に立ち寄ってくれた時、私たちは彼のアイデアを話し合い、計画を立てた。ロマンが死んだとは信じられなかった。キーウにとっても、祖国にとっても大きな損失だ」

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戦死したロマン・ラトゥシニ氏の遺影(筆者撮影)

「ロマン・ラトゥシニのような人は強くて民主的なウクライナの未来だ。ロマンの名はキーウの通りに刻まれるだろう。キーウの緑地帯を守るという彼のアイデアは生き残る。ロマンの夢は実現する。キーウのプロタシフ・ヤールは緑豊かな地区のまま残される。ロマンの明るい思い出。彼は本当の戦士だった」

「ウクライナは欧州だ」立ち上がった若者たち

ロマンは6月9日、ウクライナ北東部ハルキウ州イジュム付近で戦死した。ロマンが始めた環境保護団体「プロタシフ・ヤールを守れ」は「ロマンはわれわれの最高の存在だ。どんな闘いでも先頭を走り、決して恐れを見せない勇敢な男だった。彼は最後の戦いで、戦闘集団の一員として偵察パトロール中に死亡した」とフェイスブックに投稿した。

ロマン(手前)の6月7日のツイート


7月5日に25歳の誕生日を迎えるはずだった。2013年11月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の意を汲んで欧州連合(EU)との連合協定への署名を拒否したヤヌコビッチ氏に抗議するデモに大学1年生、16歳だったロマンは参加した。ソ連崩壊後に生まれ、共産主義の恐怖支配を全く知らない若者たちは「ウクライナは欧州だ」と声を上げた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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