コラム

【ラグビーW杯】オールブラックスの「ハカ」を封じ込めたエディー・ジョーンズの魔術

2019年10月28日(月)14時00分

オールブラックスのハカにV字陣形で対峙するイングランド代表(10月26日、横浜国際総合競技場にて) Issei Kato-REUTERS

[ロンドン発]4年前のラグビーワールドカップ(W杯)イングランド大会で日本代表を率いて強豪国・南アフリカ相手に「ブライトンの奇跡」を演じるなど3勝を挙げ、世界に衝撃を与えたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)。

日本大会では、前回"開催国"だったにもかかわらず1次リーグ敗退を喫したイングランド代表を見事に立て直し、2度目の優勝を目指している。準決勝のニュージーランド戦ではオールブラックス伝統の勇壮な舞い「ハカ」の三角形の陣形を囲むようにイングランドはV字の陣形を組んだ。

ふてぶてしい面構えのオーウェン・ファレル・イングランド主将は「一列になって彼らに向かって立ち、こちらに向かって来させたくなかった」と振り返る。ファレル主将はにやにやしながら、オールブラックスに2~3回ウィンクしてみせた。

ルールでは相手陣地に入ってはいけないが、V字の両端に位置する複数のイングランド選手がハーフウェイラインを越えてニュージーランドの陣地に入ったため、審判から注意された。試合前の心理戦に「だからイングランドは世界で最も尊敬されないんだ」という批判もあったが、「これで勝負あった」と称賛の声が多く寄せられた。

W杯20連勝中の天敵に完勝

イングランド代表は縦横無尽にボールをつないで走りまくり、前半1分に早々とトライ。ラックやモールのFW戦を制し、15回も相手ボールを奪って突き放した。3連覇を目指していたオールブラックスはW杯20連勝中。イングランドにとってはW杯で3回対戦して一度も勝ったことがない"天敵"だった。

まさかの完敗に地元紙ニュージーランド・ヘラルドは朝刊1面を黒く塗りつぶし、「オールブラックスのW杯は終わった」と白抜きでその衝撃を伝えた。ジョーンズ氏からサジェスチョンはあったものの、「ハカ」に対抗する勝利のV字作戦を発案したのはファレル主将だったそうだ。

パブリック・リレーションズ(広報)の業界紙PRWeeKは「ジョーンズ氏ほど心理戦に秀でた人はいない」と称賛する。試合前の記者会見でジョーンズ氏はこれ以上高まりようがないメディアの関心を巧みにそらす一方で、期待値を上手く操作して選手のプレッシャーを取り除いた。

面白い見出しに飢えているメディアに対し、ジョーンズ氏は唐突にニュージーランドのスパイ疑惑を持ち出した。

「練習場近くの集合住宅から誰かが間違いなく撮影していた。日本のファンかもしれないけどね。気にしていないよ。我々もニュージーランドの練習を探らせている。みんな何をやっているか知っている。何の驚きもないし、何も変わらない。こうしたことが性に合っているのさ」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

海運大手マースク、スエズ運河から迂回 紅海周辺情勢

ビジネス

米1月PPI、前月比0.5%上昇に伸び加速 関税転

ビジネス

ネトフリ株一時9%超上昇、ワーナー買収断念の意向を

ビジネス

今年の米経済は「力強さ増す」、新企業成長で雇用創出
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石が発見される...ほかの恐竜にない「特徴」とは
  • 4
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    習近平による軍部粛清は「自傷行為」...最高幹部解任…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 9
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story