コラム

インフレと金利上昇で揺れる不動産市場...「持ち家」「賃貸」論争に変化の兆し?

2024年08月30日(金)14時00分
インフレの本格化によってデベロッパーも1億円超えの高級物件にシフトしつつある ZHANG XUN/GETTY IMAGES

インフレの本格化によってデベロッパーも1億円超えの高級物件にシフトしつつある ZHANG XUN/GETTY IMAGES

<首都圏新築マンションの平均価格は8000万円を突破、日本だけでなく世界各国でも不動産市場は変化の時を迎えている>

日本国内でもいよいよインフレ(物価上昇)が本格化してきたことで、不動産価格の常識が変わろうとしている。都市部においては、マンション価格が平均的な所得層では手が出ない水準まで高騰していることに加え、日本銀行の政策転換の影響で金利上昇が本格化しており、簡単には住宅ローンも組めない時代が当たり前となりつつある。新時代における不動産価格の常識について考察する。

このところ不動産価格の高騰が著しい。不動産経済研究所の調査によると、2023年の首都圏新築マンションの平均販売価格は8101万円となり、前年との比較で29%もの上昇となった。今から20年前の03年の価格は4069万円だったことを考えると、20年で不動産価格は2倍になった計算だ。もっとも、価格が異常なまでに高騰したのは昨年以降のことであり、その理由は急激な円安をきっかけに日本でもインフレが本格化してきたからである。


過去20年間、マンション価格は上がり続けてきたが、要因の大半は資材価格の高騰であった。1990年代以降、日本を除く世界各国は順調に経済成長を続けており、新興国が次々と準先進国入りを果たしたことで世界的に建設需要が増大。各種資材の価格が値上がりし、デベロッパー各社は仕入れコストの増大に悩まされた。

コストが上昇している以上、販売価格を上げなければ利益を確保できないので、デベロッパーは渋々価格を上げる選択を行ってきたが、一方で日本経済は長く不況が続いていたため、消費者の購買力は拡大していない。過去20年間の平均給与は300万円台後半でほぼ横ばいの状態となっており、マンション価格の上昇に対して労働者の賃金は伸びていないことが分かる。

賃金が増えないなか、資材価格ばかりが高騰するので、デベロッパーはマンションのスペックを落とし、販売価格を抑える努力をせざるを得なかった。言葉は悪いが、過去20年間の新築マンション販売というのは、価格を抑えるために、いかに安普請で済ませるのかの歴史と言っても過言ではない。

では20年以降、なぜ6000万円台だったマンション価格が一気に8000万円台に跳ね上がるという現象が発生したのだろうか。それは日本でもいよいよインフレが本格化し、従来の手法ではもはやデベロッパーはビジネスを継続できなくなったからである。

インフレが進むと資材価格が高騰するだけでなく、地価も上昇するので、デベロッパーにとってはダブルパンチとなる。日本の場合、アベノミクスの中核的政策である大規模緩和策が現在も続いており、日銀はようやく正常化に舵を切ったものの、現時点でも大量のマネーが市場に供給され続けている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story