コラム

広島マツダ「障害者への差別動画」騒動には、日本を「貧しくした元凶」が表れていた

2023年05月17日(水)18時38分
障がい者イメージイラスト

SMARTBOY10/ISTOCK

<グローバルスタンダードでは、「障害者を揶揄するつもりはなかった」という自分の思いではなく、相手がどう受け止めるかで判断される>

自動車販売会社である広島マツダの社員が障害者を揶揄する動画をアップし、同社が謝罪したものの、さらに炎上が拡大するという出来事があった。同社が公表した文書が非常識だったことが原因だが、日本の企業社会がいかにグローバルスタンダードから隔絶されているのか、改めて思い知らされる結果となった。

事の発端は同社社員が障害者を揶揄するような様子が映った動画をSNSに投稿したことである。当然のことながらネットでは大炎上となり、同社は公式サイトに謝罪文を掲載した。

ところがその謝罪文の内容が、障害者に対してではなく、「お客様ならびに関係各位」に「ご心配ご迷惑をおかけしておりますこと」をわびるという信じられない内容だった。

加えて動画を投稿した社員についても「障害者を揶揄するつもりはなかった」と擁護し、「軽率な行動」に対して「厳重注意」を行うという措置にとどまっていた。

「軽率」な行動としか見ていない

障害者を揶揄する動画を従業員がSNSにアップすれば、諸外国ではトップの首が飛ぶほどの大問題となるが、同社の中では単なる「軽率」な行動でしかないということが明らかとなってしまったのだ。案の定、ネットでは「謝罪になっていない」として火に油を注ぐ状況となっている。

今回は同社の対応に大きな批判が集まったが、実は日本において差別発言を行った人物や企業が「差別する意図はなかった」と開き直るのはごく当たり前のことであり、加害者が被害者に対して謝罪するのではなく、関係者に対して「心配をかけたこと」をおわびするというのも、ごく一般的な表現である。

つまり日本では、差別する意図がなければ何を言っても自由であり、意図がない以上、当事者には直接謝罪しないことが当然視されていることになるわけだが、これはグローバルな企業社会における価値観と著しく乖離している。

近代社会においては「思い」ではなく「行為」によって判断する、あるいは「自身がどう思うのか」ではなく、「相手がどう受け止めるのか」によって判断するというのが大原則であり、本人にどんな意図があったかは問われない。この原則を崩してしまうと、当事者が正しいと思えば、どのような不当な行為も正当化されるということになり、異なる文化圏同士で適切な交流ができなくなってしまう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 

ワールド

米政権、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止を指示

ワールド

焦点:イスラエルのイラン攻撃、真の目標は「体制転換

ワールド

イランとイスラエル、再び相互に攻撃 テヘラン空港に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story