コラム

中途半端な「緊急事態宣言」は、守りたいはずの経済にも逆効果か

2021年01月13日(水)11時44分

ISSEI KATOーREUTERS

<前回より緩い宣言は経済に大きな打撃を与えないとも言われるが、長期的には必ずしもそうではない>

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大していることから、政府は2度目の緊急事態宣言に踏み切った。経済の落ち込みが懸念されるが、前回と比較して規制の内容が緩く、それほど大きな影響を与えない可能性もある。

昨年の大みそかにおける新型コロナウイルスの新規感染者数(東京都)は、これまでの水準を大きく超える1337人と衝撃的な結果になった。事態を重くみた菅義偉首相は正月返上で対応に当たったが、2日には小池百合子東京都知事をはじめ1都3県の知事が政府に緊急事態宣言の発令を要請。知事らに押し切られる形で、政府は緊急事態宣言の発令に踏み切った。

昨年は地域別に1カ月から1カ月半にわたって発令され、2020年4~6月期の実質GDPは記録的な落ち込みとなった。今回はとりあえず1都3県のみが対象(編集部注:13日には大阪、愛知など7府県にも拡大される見通し)だが、それでも日本全体のGDPの約3割を占めるため首都圏の消費が停滞する影響は大きいだろう。

日本の消費者は1カ月当たり約20兆円の支出を行っているが、不要不急の外出が制限されると、必需品しか購入しなくなるため、統計上はおおよそ半分の消費がストップする。単純に1都3県で個人消費が半分になった場合、1カ月当たりの減少額は約3.3兆円と計算される。

昨年の緊急事態宣言では1カ月当たり10兆円の消費が失われたので、大ざっぱに言えば、前回の3分の1程度の影響が予想される。

感染拡大を防止する効果は薄い?

一方で、今回の宣言では大きなマイナスにはならないとの見方もある。対象が1都3県に限定され、施設の使用制限も基本的に飲食店が中心であることから、事実上、首都圏の飲食店を対象にした営業自粛要請にすぎないとの解釈も可能だ。

そうなると日常的なビジネスは今までどおり維持されるので、影響は特定業種に集中することになる。飲食店にとっては大打撃なので、十分な支援策が必要だが、全国民に10万円を給付した前回のような大型の支援策も検討されない可能性が高いだろう。

もっとも、今回の宣言が経済的に大きな打撃を与えないのであれば、疫学的には、感染拡大を抑止する効果が薄いことを意味している。感染症の専門家のほとんどが、人の移動が増えるとその分だけ感染が拡大すると指摘している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大

ビジネス

加藤財務相、為替はベセント米財務長官との間で協議 

ワールド

トランプ米大統領、2日に26年度予算公表=ホワイト

ビジネス

米シティ、ライトハイザー元通商代表をシニアアドバイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story