コラム

現金給付と休業補償、コロナ経済対策で救われるべきは誰なのか?

2020年04月16日(木)11時55分

経済活動の停止は多くの企業に大きな損失をもたらしている ISSEI KATOーREUTERS

<30万円給付の決定後も、変更や追加を求めて議論は混乱。あるべき対策の形は、資本主義と民主主義の原理原則に立ち返れば見えてくる>

新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済対策について、年収が減少した世帯に対する30万円の給付がとりあえず決定した。非常事態宣言が発令されたことから、一部の業種では深刻な経営危機に直面しており、休業補償に関する議論も活発になっている。

だが、給付や休業補償についての議論は混乱しており、論点が整理されているとは言い難い。資本主義と民主主義の原理原則に基づいて整理しておきたい。

政府は2020年4月4日、新型コロナウイルスの感染拡大により収入が一定の水準まで減少した世帯を対象に30万円の給付を決定した。だが、給付の対象範囲をめぐっては与党内からも異論が出ており、状況は流動的である。

一方、首都圏での感染拡大が深刻化していることから、政府は緊急事態宣言を発令。各自治体は、不要不急の外出を控えることや、事業所の営業自粛を呼び掛けており、自粛の対象となった業界には致命的な影響が及んでいる。一部からは、政府がしっかりと休業補償をしない限り、いくら自粛を呼び掛けても効果が薄いとの指摘が出ているが、休業補償については対象や手法についてさまざまな意見が出ており議論は迷走気味だ。

では現金給付や休業補償は本来、どうあるべきなのだろうか。資本主義社会の基本原則で考えるのなら、まずは法人と個人の役割や責任を明確に区分することが重要である。そもそも法人というのは、個人が無制限にリスクを負わなくても済むよう編み出された存在であり、特に、所有と経営、労働が完全に分離されている株式会社はこうした目的のために存在している。

事業損失の責任を負うのは従業員ではない

会社の所有者である株主や、経営を託されている経営者は事業リスクを負う代わりに高額の配当や役員報酬を得ているので、非常事態における事業損失を有限責任で引き受ける義務を持つ。

一方、従業員は労働力を提供することで、一定の賃金をもらうだけの立場であり、事業に対する責任は負っていない。従って、最優先すべきは休業で仕事を失った従業員への補償であり、これが徹底されれば、企業側は休業を決断しやすくなる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続落、リスクオフで1620円安 今年

ワールド

訪日客17%増の389万人、10月の最多を大幅更新

ビジネス

クレディ・アグリコル、28年の純利益目標設定 市場

ワールド

中国の世界的な融資活動、最大の受け手は米国=米大学
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story