コラム

「戦後最長の景気拡大」について議論しても無意味である理由

2019年03月19日(火)15時00分

生活実感が良くないのは数字が悪いから

日本は貿易に依存する国であり、私たちの生活は輸入物価に大きく左右される。海外の物価は日本の国内経済とは関係なく決定されるので、国内がいくらデフレ基調だと言っても、海外の物価が上がってしまえば、日本人が買えるモノの量はその分だけ減ってしまう(最近は為替レートによる調整も難しくなっている)。

日本国内では携帯電話の値下げをめぐって激論となっているが、日本の携帯電話料金は諸外国と比較してそれほど高いわけではない。だが日本を除く先進各国の物価はここ20年上がりっぱなしであり、米国では大卒の初任給が50万円を超えることも珍しくない。日本の新社会人と比較すると購買力に2倍以上の差があるので(つまり米国の方が豊かなので)、同じ通信料金でも日本人にとって高く感じるのは当たり前である。

こうした現状を考えると、日本人が豊かさを実感するためには、先進諸外国と同水準かそれ以上の経済成長を実現する必要がある。アベノミクスがスタートした2013年から2018年にかけての実質成長率の単純平均は約1.3%となっているが、これに対してドイツは1.8%、米国は2.3%もある。

国民の平均年収に近い1人あたりのGDP(国内総生産)についても、日本は445万円だが、ドイツは540万円、米国は690万円とかなりの差が付いている。現時点において、日本人が豊かさを感じられないのは当然だろう。

時折、「経済指標は良いが、それが生活実感に結びついていない」という表現がされることがあるが、経済指標は最終的には必ず生活実感に一致する。生活実感が良くないのは数字が悪いからである。

経済政策が効果を発揮する部分はそれほど多くない

戦後最長という文言に意味がないのは、過去の成長率との比較からも明からである。日本はオイルショックをきっかけに低成長時代に突入したが、それでも70年代から80年代にかけては4%台の成長率があった。本当の成長というのはこういうものであり、今の成長率で人々が豊かさを実感できないのも無理はない。

経済というのは、その国が持っている産業の基本構造によって、ある程度まで成長力が決定づけられてしまう。日本経済は以前と比べてGDPに占める輸出の割合は低下しているが、それでも、輸出の拡大が設備投資を促し、これが賃金を上昇させ、個人消費が増えるという図式はあまり変わっていない。

政府による経済政策は、景気の動向をある程度までならコントロールできるが、経済政策のみで、その国の経済状況を根本的に変えることはできない。経済の基本構造を決めるのは企業や消費者の動きであり、政府は脇役でしかないのが現実だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story