コラム

そろそろ価値観の転換が必要。インフレ経済はすでに始まっている

2018年05月29日(火)12時00分

内容量の削減も立派な値上げ

これに対してコストプッシュ・インフレは供給サイドを要因とするインフレである。例えば資源の枯渇などで原材料価格が上昇した場合、企業は利益が減ってしまうため、この分を価格に転嫁しようとする。この動きが社会体に広がって物価が上昇していく。

1970年代に発生したオイルショックによるインフレは典型的なコストプッシュ・インフレといってよい。人手不足による人件費の高騰も、原材料費の価格高騰と同じ効果をもたらすのでコストプッシュ・インフレである。

物価について議論する際には、モノの価格とサービスの価格を分けて考えた方が、より現実を把握しやすいだろう。

日本の場合、モノの多くは輸入に頼っているので原材料価格や為替の変動から大きな影響を受ける。企業の仕入れ価格は動きやすく、モノの値段はすでに昨年からかなり上昇している。

メーカー各社は、価格を据え置く代わりに内容量を減らすという、いわゆる「ステルス値上げ」を繰り返しているが、これはただの誤魔化しに過ぎない。しかも今年に入って、こうしたステルス値上げでは原材価格の高騰に対応できなくなり、とうとう名目上の価格も引き上げるケースが増えてきた。

インスタントコーヒーやビール、小麦粉、冷凍食品、菓子類などが軒並み値上げになっていることを考えると、モノのインフレはすでに広範囲に及んでいると考えた方が自然である。
 
一方、外食などのサービス価格については、硬直的な日本の労働市場も手伝って、これまで大きな変動はなかった。企業はできるだけ昇給を抑制したり、賃金の安い非正規社員への切り替えを進めることで、原材料価格の上昇をサービス価格に反映させないよう工夫してきた。

だが、こうした取り組みもそろそろ限界に達しつつある。このところアルバイトやパートの時給が高騰しており、サービス価格への転嫁が不可避な状況となってきたからである。つまり、現在の日本は、原材料費の高騰と人手不足という2つの要因が重なっており、コストプッシュ・インフレになりやすい状況に陥っているのだ。

そろそろ価値観の転換が必要な時期に来ている

牛丼チェーンのすき屋は昨年11月、牛丼の一部メニューについて値上げを実施し、松屋も今年4月から部分的な値上げに踏み切った。吉野家は今のところ踏みとどまっているものの、同社の決断は近いとの声も聞かれる。

もし日本で本格的にインフレが進んだ場合、少々やっかいなことになる。なぜなら、日銀が依然として量的緩和策を継続しているからである。

量的緩和策は、デフレ傾向が強く、物価が上がりにくい状況に対する処方箋として考え出されたものであり、すでに日銀の当座預金には380兆円もの現金が積まれた状態にある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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