コラム

「年金維持のため69歳定年に」日本より健全財政のドイツでなぜ?

2016年09月06日(火)16時17分

 このためドイツは財政的に余力があり、リスクの高い積立金運用に頼らなくても年金への国庫補助が可能となっている。今回の定年引き上げ論は、こうした状況においても、さらに年金財政を健全化させようという試みであり、ドイツの財政健全化に対する要求水準の高さが分かる。

 公的年金の財政状況が健全なのは、こうした財政に対する基本的なスタンスの違いに加えて、個人に強く自立を求めるドイツ社会の風潮も大きく影響しているだろう。

 ドイツは労働市場が柔軟で、企業は特に理由がなくてもいつでも自由に従業員を解雇できる仕組みになっている(その代わり、失業保険や職業訓練制度などが充実している)。自らの生活を成り立たせるのは自分自身という考え方は日本より徹底しているといってよいだろう。このため公的年金とは別に、積立式の個人年金制度が用意されており、ある程度、所得のある人は個人年金も併用していることが多い。

 ドイツと日本の年金制度はよく似ている。そうであるが故に、財政的に余裕のない日本が、この制度を維持することが困難でもあることもまた明白である。近い将来、年金の支給開始年齢の大幅な引き上げと、給付額の削減という荒波は避けて通れそうもない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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