コラム

中国は日本を誤解しているのか

2016年05月27日(金)17時30分

 この調査は2006年2月と2009年1月にも実施さていた。それによれば、日本国民は「日本の平和と安全」に関係する問題として「朝鮮半島情勢」や「国際テロ組織の活動」とともに「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」に強い関心を示してきた(2006年の回答は36.3%、2009年は30.4%)。過去10年の間、日本国民は中国の軍事力の活動に対する関心を年々強めてきた。

 とはいえ、日本国民の「親近感」の低下と「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」に対する関心の高まりを、日中関係の悪化を示唆するものだと説明するわけにはいかない。日本国民は対中関係の重要性を深く理解している。

 今年1月に実施した先の調査(「外交に関する世論調査」)は、「今後の日本と中国との関係の発展は、両国や、アジア及び太平洋地域にとって重要だと思うか」という別の問いを立てていた。これについて「重要だと思う」と答えたのは73.3%であった。日本国民は中国との関係について、二国間関係の安定と発展は重要であるという強い意識を共有している。先の外相の演説は、こうした日本国民の対中認識を簡潔かつ明確に体現したものだ。

苛立つ中国?

 中国側もまた、対日関係重視のメッセージをはっきりと発している。岸田外務大臣の訪問に対して中国は、王毅外交部長と楊潔箎国務委員との会談で迎えるとともに、李克強国務院総理の表敬訪問の場を設けた。華字メディアの分析報道によれば休日に李総理が表敬訪問を受けたことは異例であり、これは中国側の決意を示唆しているという。

 外務省の説明によれば、日中外相会談では、相互の敬意と尊重が不足しているという現状認識の下に、「相互理解を図り、相互信頼を増進していくために双方が不断に努力」する必要性があることを確認したという。

 しかし中国が公表した資料によれば、会談で中国側は日本に対する不満を隠さなかった。王外交部長は、両国関係が繰り返し困難な局面に直面するのは、「日本側の歴史認識と対中認識に問題があるから」といい、「来年は中日国交正常化45周年、再来年は中日平和友好条約締結40周年にあたり、これは中日関係を改善、発展させる重要なチャンスである」から、日本は「誠意」ある行動を示すべきだというのであった。

 王外交部長は四つの要求を提起していた。一つ目は「日中共同声明」をはじめとする四つの重要文書を厳格に守ることであり、二つ目は日本の対中認識をめぐる問題の解決だった。日本に対して「互いに協力パートナーであり、互いに脅威とならない」との日中間の共通認識を再確認し、「前向きで健全な心理状態で中国の発展をとらえ、さまざまな「中国脅威論」や「中国経済衰退論」を流し、同調することを止めるべきだ」と求めた。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story