コラム

中国は日本を誤解しているのか

2016年05月27日(金)17時30分

訪中した岸田外務大臣(左)と中国の李克強首相 Jason Lee-REUTERS

<日本人は中国を警戒しながらも、中国との協力なくして日本は生きていけないことも理解している。それなのに中国政府はなぜ不満を露わにし、要求をつきつけるのだろう>

 中国の急速な国力の増大は、アジア・太平洋地域におけるパワーバランスの著しい変化を生み、今日、それは地域の秩序に極めて大きな影響を与えている。この地域に位置し、世界の第3位と2位の経済大国である日本と中国は、地域と世界の平和と繁栄に対して責任を果たすことを国際社会から求められている。

 しかし近年の日中両国の関係は国際社会が期待しているような関係を構築できていない。地域秩序の安定にとって大きなリスクだ。

 もちろん日中両国政府は、この問題をよく理解している。2014年11月に北京で開催された日中首脳会談は、この問題の克服を目的とした日中両国の取り組みの成果であった。この会談の開催に向けて、日中両国は堅い板に錐で穴を開けるような「静かな話合い」を積み重ねてきたことも明らかになっている。今日の日中両国政府は総体的には改善にむけた道をともに歩んでいる。

この歩みの延長線上にあるのが、4月29日から5月1日にわたる岸田文雄外務大臣の北京訪問である。これは、外務大臣が国際会議に参加するための訪問ではなく、二国間訪問としてする、四年半ぶりの中国訪問であった。

 日本政府が岸田外務大臣の中国訪問を決断したこと、そして中国政府がこれを受け入れたことは、関係改善に向けた両国政府の極めて強い決意の表れにほかならない。

日本国民の中国を見る眼

 日本の対中政策は明確である。岸田外務大臣が中国訪問直前の4月25日に行った「新しい時代の日中関係」と題する講演は、日中両国間にある多くの課題や懸念を乗り越え、国際社会から求められている地域と世界の平和と繁栄に対する責任ある役割を果たすよう努力する必要があると訴えていた。

 この演説は日本国民の対中認識を的確に反映したものだ。よく知られているように日本国民の中国に対する親近感は急速に低下している。今年1月に内閣府が実施した「外交に関する世論調査」によれば、回答の83.2%が「親しみを感じていない」であった。「中国に対する親しみ」が80%に近かった1980年代と比較すれば、日本の中国に対する親近感は劇的に低下してしまった。この変化は日中関係に大きな影響を与えている。とりわけ中国側は強く注目している。

「変化」に影響を与えている因子は複数考えられるが、その重要なものの一つが中国の近年の東シナ海や南シナ海における行動だろう。昨年1月に内閣府が「自衛隊・国防問題に関する世論調査」の一環として「日本の防衛のあり方に関する」国民の意識を把握するために実施した調査によれば、「日本の平和と安全の面から関心を持っていることは何か」という問いに対して、調査対象者の60.5%が「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」と答えた。それは「朝鮮半島情勢」(52.7%)や「国際テロ組織の活動」(42.6%)という回答を上回っていた。同じ調査は2012年1月にも実施されているが、そのときは「朝鮮半島情勢」が第一であり(64.9%)、「中国の軍事力の近代化や海洋における活動」が第二位であった(46.0%)。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 9
    中国の砂漠で発見された謎の物体、その正体は「ミサ…
  • 10
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story