コラム

「核心」化する習近平

2016年02月04日(木)16時00分

 政治局委員と政治局常務委員を「投票」によって選出する制度がはじまったのは、この10年のことだ。それ以前は、後継はカリスマ指導者によって「指名」された。江沢民と胡錦濤は、鄧小平というカリスマが指名して総書記という地位に就いた。カリスマが不在であったので、ポスト胡錦濤は「投票」によって選出された。では習近平の後継も「投票」によって選ばれるのだろうか。

 加えて、「定年」という制度が遵守されるかも重要なポイントだ。例えば中国共産党内の反腐敗キャンペーンを担当している中央規律検査委員会書記である王岐山が19回党大会を期に引退するかどうかだ。1948年生まれの王は「七上八下」の定年制度に引っかかる。王に替わって誰が反腐敗キャンペーンを牽引するのだろうか。

「核心」化と「ポスト習近平」

 習近平の「核心」化と「ポスト習近平」の選び方は緊密に関係している。

 政権指導部は、政治指導者の政治的権威の強化を必要としている。そのために必要なことは実績だ。しかし中国社会の人々が感じる習近平政権の実績は十分ではない。したがって政治指導部は権威を創り上げなければならない。これが習近平の「核心」化だ。

「投票」や「定年」といった後継者を選抜する制度に手をつけることも権威を創り上げる効果的な方法だ。「投票」ではなく「指名」、そして「定年」の厳格な運用から戦略的な運用へと変更することによって、習近平を取りまく政権指導部のメンバーは「ポスト習近平」の選抜方法は習近平が決めるのだ、と理解する。加えて彼らは、もしかすると習近平の任期は2022年までではないかもしれないと想像する。任期の終わりを予測できない権威主義国家における最高指導者の政治的権力と権威は無限だ。

 制度とは、「人々の間で共通に了解されているようなゲームのプレイの仕方」と定義される。とはいえ、定着している制度を打ち壊すことは容易ではない。ましてや「投票」や「定年」という人事制度の場合はなおさらだ。今日、いかに習近平は権力と権威を集中させているとはいえ、人々が過去30年間にわたって共通に了解してきた制度に手を加え、変更することができるのだろうか。

プロフィール

加茂具樹

慶應義塾大学 総合政策学部教授
1972年生まれ。博士(政策・メディア)。専門は現代中国政治、比較政治学。2015年より現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員を兼任。國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所中国研究センター訪問研究員、國立政治大学国際事務学院客員准教授を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(単著、慶應義塾大学出版会)、『党国体制の現在―変容する社会と中国共産党の適応』(編著、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換: 「一九七八年」を越えて』(編著、慶應義塾大学出版会)、『北京コンセンサス:中国流が世界を動かす?』(共訳、岩波書店)ほか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

J&J、1─3月売上高が予想届かず 医療機器と主力

ビジネス

米BofA、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ビジネス

HSBC、アジア投資銀行部門で10数人削減 香港な

ワールド

トランプ氏、経済運営ではバイデン氏より高い評価=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    【画像・動画】ウクライナ人の叡智を詰め込んだ国産…

  • 10

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story