コラム

いつか来る(かもしれない)災害に本気で備えることの難しさ

2021年02月17日(水)15時45分

イギリスは実は大雪には慣れていない John Sibley-REUTERS

<変化に乏しい気候のイギリスは、たまに訪れる天災のたびに右往左往。不確実でまれな事態に備えることの難しさは感染症対策にも通じる>

何よりとにかく、大雪が続いていた。イギリス人はしょっちゅう天気について話したがる、というのが決まり文句で、イギリスの天気はこんなに代わり映えしない(モンスーンもなければ台風もない)のに話題にしてばかりいておかしいね、というのもまた決まり文句になっている。

だから、たまに本当に厳しい天候になったとき、イギリス人はヒートアップする。僕がイギリスに帰国してからの11年間では計3回、混乱をきたすほどの大雪があった。それは通常より高い頻度だったといえるかもしれないが、それでも毎回、雪が残ったのは数日であり、数週、ましてや数カ月続いたりなどしなかった。

今回の大雪は、どちらにしろみんな新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)で家に籠もっているのだから「いいタイミング」なのか、それとも転倒や骨折や他にも雪関連の事故が起こって今まさに病院にとっては望ましくない患者超過になるのは必至だから「最悪のタイミング」なのか、意見が分かれるところだった。

典型的に、イギリス人は天気のことで愚痴を言うもの。「うだるような暑さだ!」「永遠に雨が続くのか?」といったものから、「北欧諸国は毎年もっとひどい雪が降ってもうまく対処しているのに、どうしてうちの国はちょっとの雪で機能停止するんだ?」という具合だ。

10年に一度の災害に資源を投じられるか

僕は、日本の「雪国」はいかにして冬に対処しているかという話を持ち出して、この手の愚痴に参加したことがある――道路を走れば、きちんと除雪された雪で両脇に2メートルの壁ができている、と。僕や他のイギリス人にとって、この話は日本がいかに優れていて、イギリスがいかに絶望的かを示しているのだ。

イギリスが大雪にうまく対処できない理由は、考えれば明らかなのだが、国民に折に触れて説明する必要がある。スウェーデンや秋田県では大雪は毎年起こることだから、彼らはそれに対処する設備がある、というのがまさにその理由だ。

イギリスの場合、あるのは「平常の」積雪量と寒さに対する備えだけで、それ以上の対策はほんのわずか。多くの除雪車もないし、その運転手も多数確保しているわけではないし、凍った路面にまく砂も大量に用意してはいない。

理想を言えば、10年に一度起こる数週間のシベリア級の大寒波が国を覆うときのために、これらを備えておけばいいのだろう。でもそれをするためには、たとえば薬物乱用更生プログラム(ここ十年ほどで需要は急増しているのに予算不足にあえいでいる分野だ)といった、他のところの資金を削って費やすことになるだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:困窮するキューバ、経済支援で中国がロシアに代

ビジネス

スターボード、トリップアドバイザー株9%超保有 株

ワールド

相次ぐ熱波で欧州成長率0.5%減の恐れ、全世界も0

ビジネス

米衣料品ランズエンド買収に2社入札、オーセンティッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story