コラム

英労働党トップに無名(?)強硬左派、の衝撃

2015年09月18日(金)17時30分

ジェレミー・コービンが労働党の党首に選ばれるとは誰も予想していなかった Stefan Wermuth-REUTERS

 ここのところ、コメンテーターのこの手の言葉を繰り返し耳にしている――「ジェレミー・コービンが労働党党首に選ばれるなどと3カ月前に言われたら、私はそいつを面と向かって笑い飛ばしていただろう」。

 正直に認めよう。もしも僕が3カ月前にそんな話を聞かされていたら、笑い飛ばすどころじゃなく、こう答えたはずだ。ジェレミー・コービンって誰?

 コービンがイギリス最大野党・労働党の党首に選ばれたことは、シンプルな言葉で表現するなら「とてもびっくりする」出来事だった。彼は強硬左派で異端児の非主流派議員で、党首選の候補者になれたのも、彼がいれば討論が活性化するだろう程度に思った議員が何人か推薦者に加わってくれたからだ。

 ところがそれどころか、こんなにも仰天の結果を呼ぶ大規模な地殻変動が起こることになってしまった。

 民主主義政治は通常、中間層の浮動票獲得を狙って動くもの。よほどの例外的な状況でもないかぎり、従来の支持基盤を超えて幅広い国民の支持を得たほうの政党が政権につく。だからこそ、保守党のデービッド・キャメロン率いる政権はいつもたいして「保守的」ではない。たとえば同性婚も合法化したし、最低賃金の大幅引き上げも計画している。どちらも超保守派にはウケの悪い政策だ。

 それでも、(今年5月に労働党が味わったように)総選挙で屈辱の大敗を喫した政党は、内向きになる傾向がある。党の昔ながらの価値観を採用することで、筋金入りの支持層にてこ入れしようとするのだ。

■総選挙敗北で勘違い

 強硬左派のコービンは「古い労働党」とか「反ブレア派」とか呼ばれる男。彼は労働党の草の根の人々に、早くも熱狂を呼び始めている。政権奪取のためなら党の価値観も犠牲にして中間層にすり寄るような人物ではなく、真に労働党のために立ち上がる党首が現れたのだ、と。彼の主張はこうだ。国有化政策再び! 富を再分配せよ! 緊縮政策に終止符を!

 総選挙で敗北が続いている政党は、「自分たちが真の代替勢力として見てもらえなかった」から有権者の支持を得られなかったのだと思い込む。彼らは自分たちが「あまり好かれなかっただけ」ということに気付かない。むしろ、極端さが足りなかったと考えてしまう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story