コラム

イギリスは第2のオーストリアになるのか

2016年06月27日(月)11時59分

 また、デヴィッド・キャメロンは、2006年に保守党党首選挙に出馬した際に、閣僚経験がなく、また30代という若い年齢で政治経験が浅かったために、党内主流派で8割近くを占めていた欧州懐疑派に迎合して、彼らが求める政策に同調して党首の座を射止めました。さらには、2014年の欧州議会選挙で最大の議席をとって第一党となったUKIPに脅威を感じて、キャメロンは2015年の総選挙ではEU離脱を問う国民投票を行うことを公約に掲げて、総選挙に勝利して単独政権を実現しています。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 これらの三人の政治指導者の、短絡的で政局的な合理的判断が、三人共が意図せぬかたちで大国イギリスを解体させようとして、EUを傷つけようとしています。

 いったい、政治における合理的な判断とは何なのでしょうか。優れた資質を持ち、イートン校とオクスフォード大学という最高の学歴を持つキャメロンとジョンソンという二人の理性的な指導者が、なぜこれほどまで愚かな政治行動を取ってしまったのでしょうか。

 第一次世界大戦のときに、強硬な政策を選択したオーストリア政府の指導者達は、1918年にハプスブルク帝国が解体したときに、「まさかこのような帰結になるとは想像もしていなかった」と思ったことでしょう。同じように、これから連合王国が解体したときに、キャメロンもジョンソンも、自らの誤った判断が、「まさかこのような帰結になるとは想像もしていなかった」と思うのかもしれません。

※当記事はブログ「細谷雄一の研究室から」からの転載です。

<ニューストピックス:歴史を変えるブレグジット国民投票

プロフィール

細谷雄一

慶應義塾大学法学部教授。
1971年生まれ。博士(法学)。専門は国際政治学、イギリス外交史、現代日本外交。世界平和研究所上席研究員、東京財団上席研究員を兼任。安倍晋三政権において、「安全保障と防衛力に関する懇談会」委員、および「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員。国家安全保障局顧問。主著に、『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、サントリー学芸賞)、『外交による平和』(有斐閣、櫻田会政治研究奨励賞)、『倫理的な戦争』(慶應義塾大学出版会、読売・吉野作造賞)、『国際秩序』(中公新書)、『歴史認識とは何か』(新潮選書)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国連大使が板門店訪問、北朝鮮擁護やめるよう中ロに

ビジネス

資産運用会社、過去2年余りで最も強気=BofA月例

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

アングル:輸入企業の為替管理に狂い、迫られるリスク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story