コラム

トランプを信用していないが対米関係も重視...サウジ「全方位外交」の狙い

2025年05月09日(金)16時40分

内政・外交・経済の全権をほぼ掌握するムハンマド皇太子の改革は成功なるか REUTERS

<アメリカ、ロシア、イランと全方位外交を展開している産油国サウジアラビア。ムハンマド皇太子は「野心」実現のため積極的中立主義を貫く>

ここ10年でサウジアラビアは大きく変化した。2015年に即位したサルマン国王は、1985年生まれの息子ムハンマド・ビン・サルマンを皇太子に指名。ムハンマドは首相も兼任し、内政・外交・経済の全権をほぼ掌握した。

ムハンマドは副皇太子だった16年、「サウジ・ビジョン2030」を発表。30年までにサウジ経済を多角化し、石油依存から脱却しようとする野心的な未来図だ。中核は巨大都市計画のNEOM(ネオム)で、29年にはアジア冬季競技大会が開催予定。同国では30年に万博、34年にサッカー・ワールドカップも控える。


皮肉なことに、脱石油のためには石油収入が必要であり、油価を高値で安定させるためにも巨大産油国ロシアとの協力が不可欠だ。実際、ウクライナ戦争が始まると、サウジアラビアはロシア批判を避けてきた。一方、ロシア・ウクライナの捕虜交換を仲介するなどバランス外交を意識。米トランプ政権主導の停戦交渉の場を提供した背景には、この外交姿勢が関係している。

バイデン政権時代は人権問題や脱炭素政策で両国関係はこじれた。第2次トランプ政権がバイデンの政策を否定したため、サウジアラビアは関係再構築に弾みをつけたいところ。バイデン時代には両国関係の悪化と反比例して、中国の存在感が拡大した。中国の仲介でイランと国交を正常化させたのはその最たる例だ。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米12月小売売上高、予想外の伸び悩み 個人消費に減

ワールド

USMCA巡る加との交渉困難に、インドネシアと近く

ビジネス

FRB金利は「中立」水準、当面据え置きの公算=クリ

ビジネス

パラマウント、WBD買収条件引き上げ 違約金など負
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    台湾侵攻を控えるにもかかわらず軍幹部を粛清...世界…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story