アングル:イラン混迷、高市政権初の「危機」 日米会談迫り焦燥感
写真は高市首相。2月18日、都内で代表撮影。REUTERS
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 9日 ロイター] - イラン情勢が混迷の度を増し、日本政府、与党内には焦燥感が広がり始めた。原油高騰や株価下落などマーケットの指標にも顕著な影響が出てきており、政府内に当初漂っていた楽観論は消失。石油の国内備蓄放出やエネルギー補助の要否判断に加え、ホルムズ海峡を通過する日本関連船舶の安全をどう確保するのか。日米首脳会談が10日後に迫る中、高市早苗首相は難しい判断を迫られている。
<政府答弁変更の必要性>
「状況は日々変わる。簡単な話じゃない」。安全保障政策に関わる日本政府関係者は9日、ロイターの取材にこう語った。米国とイスラエルによるイラン攻撃が続く一方、イランは死亡したハメネイ師の後継となる新たな最高指導者に次男のモジタバ・ハメネイ師を選出。依然として対米強硬派が国内の実権を握っていることを示唆した。
攻撃直後の3月初旬、政府内には「数日でマーケットも落ち着くだろう」(経済官庁幹部)との楽観論も広がっていたが、戦禍は中東全域に拡大。事態の鎮静化は一向に見通せない。
同関係者は「米国がモジタバ師にどう対応するか見極める必要がある」とする一方、「米国から求められてやるのではなく、ホルムズ海峡を通過する日本関連船舶の安全をどう確保するのか、日本が自国として考えなくてはならない」とも語った。
とはいえ、直ちに日本政府が行動を起こせるかは不透明だ。仮に自衛隊の艦船をホルムズ海峡に派遣する場合、安全保障関連法に照らして「存立危機事態」や「重要影響事態」などに当たると判断する必要が出てくる。一方で、政府はこれまで「現在の状況がこれらの事態に該当するとの判断はしていない」(木原稔官房長官)との立場を変えていない。派遣に舵を切る場合はこれまでの答弁を変更し、国民に理由を説明する必要がある。
9日の衆院予算委員会集中審議で、高市氏は存立危機事態か否かの判断について「現在の状況が存立危機事態に該当するといった認定は政府として行っていない」と改めて述べた上で、今後の可能性は「事態の個別具体的な状況に即して政府がすべての情報を総合して判断することになるので、現時点で一概にお答えすることは困難だ」と語った。
<日米首脳会談まであと10日>
現在、政府内で議論されている課題は大きく二つある。一つは3月19日に予定される高市氏とトランプ米大統領との首脳会談で、政府として米国の立場をどう評価するか。もう一つは、原油高に伴う物価上昇への対策をどうするか、だ。
高市氏は9日の予算委でも米国を支持するか否かを明言しなかったが、政務三役経験のある自民党衆院議員は「首脳会談でトランプ氏に聞かれれば、高市氏は『支持する』と言わざるを得ないだろう」と指摘。「支持はするが地上戦の回避や民間人の犠牲を防ぐことなど、抑制的な対応を同時に求めるべきだ」と述べた。前出の政府関係者は「まだ会談まで10日ある。いま方向性を決める段階にはない」とし、米国の出方が不透明な中で政府の対応を絞り込めていない事情を明かした。
<「二重苦」に問われる手腕>
一方、原油高騰への対応は焦眉の急だ。資源エネルギー庁によると、日本の石油備蓄は25年末時点で254日分ある。内訳は国家備蓄が146日分、民間備蓄が101日分などで、政府は国家備蓄の放出準備に入っているとされるが、さらなる事態の長期化となれば、放出だけでは対応しきれない可能性が出てくる。
すでに与党内には3月末で終了する電気・ガス代の補助延長に加え、ガソリン価格抑制のため石油元売りへの補助を再開するべきだとの声がある。物価高が国民生活を圧迫すれば、高市政権への批判を招きかねないとの危惧があるからだ。
高市氏は予算委で「ガソリン・軽油、電気・ガス料金を含め即座に打つべき対策について先週前半から検討に入っている。遅すぎることなく対策を打たせていただく」との方針を明らかにした。すでに編成済みの25年度補正予算などの財源を挙げ、「追加の予算措置は考えていない」との考えも示した。
ただ、そもそも財政措置で負担を下げたとしても、原油の「量」が枯渇するような状況では根本的な問題解決にはならない、との声も政府内から漏れる。経済官庁幹部は「モノがないのに料金を下げて『いままで通り使っても大丈夫』とする政策には限界がある」とし、「日本全体で使用量を減らす取り組みも考えないといけない」と述べた。
前出の政務三役経験者は「相場に合わせていちいち補助金を出していたら、なんでも政府が負担しなければいけなくなる。財政が悪化して余計に円安を招くだけだ」と指摘。液化天然ガス(LNG)については「調達先を多様化し、他地域に増産お願いするしかない」とも語っている。
マーケットは大きく動いている。9日の東京株式市場で日経平均株価は一時4200円以上下落。終値は前週末比で2892円安の5万2728円だった。米原油先物指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)はこの日の取引で急騰し、一時1バレル=110ドルを大きく超えた。
情勢が日々動く中、政府は日米首脳会談という判断期限と国内対策の「二重苦」にさいなまれている。政権発足後初めて直面した大きな「危機」に、予算委で高市氏は「いま何より重要なことは事態の早期鎮静化を図ることだ。我が国としてもあらゆる必要な外交努力を行っている」と強調した。「ホルムズ海峡における航行の自由及び安全の確保はエネルギー安全保障の観点からも極めて重要だ。中東情勢の推移を注視しながらエネルギーの安定供給確保に万全を期していく」
(鬼原民幸、竹本能文 編集:久保信博)





