焦点:国際貿易支配へ、「トランプ後」にらむ中国の戦略
写真は2025年10月、韓国・釜山で会談するトランプ米大統領と中国の習近平国家主席。REUTERS/Evelyn Hockstein
Joe Cash
[北京 19日 ロイター] - 中国はトランプ米大統領の関税政策で生じた混乱につけ込み、将来にわたって米国の圧力から自国経済を遮断できるよう、グローバル貿易体制の塗り替えを図っている。
2017年以降に中国政府系の貿易学者が執筆した中国語の記事100本をロイターが精査したところ、こうした戦略が浮かび上がった。
学者らは、米国の通商政策を「リバースエンジニアリング(逆行分析)」し、米国の封じ込め戦略を無力化すべきだと、一丸となって訴えている。
ロイターの検証によると、中国はトランプ氏が生み出した不確実性に便乗し、中国の製造拠点を欧州連合(EU)、湾岸諸国、環太平洋の貿易協定など、世界の主要な経済ブロックに組み込む構え。その一環として、交渉が長引いている約20の貿易協定の締結を加速させる方針だ。
中国は今、その青写真を実行に移している。1月のカーニー・カナダ首相の訪中時に合意した、中国製電気自動車(EV)の関税引き下げを含む協定がその第1弾だ。政府当局者や貿易担当の外交官を含む10人への取材で分かった。
ある中国当局者はトランプ氏の破壊的な貿易政策について「相手がミスを犯しているときは、邪魔をするな」と語った。
ロイターが検証した記事は、中国社会科学院(CASS)や北京大学など、政府指導部に助言を行う機関が承認した2000本以上の貿易戦略論文から選び出したもの。中国が世界貿易において長期的優位を確立するためには、痛みを伴う構造変化を受け入れる価値はあるとの見方が、政府系学者の間で広く共有されていることが判明した。
西側外交官2人は、この戦略が成功すれば中国主導の新しい多国間秩序が築かれ、10年以上にわたる米国の通商政策が覆される可能性があると指摘している。ブリューゲル研究所のシニアフェロー、アリシア・ガルシアヘレロ氏は「中国には今、絶好の機会が訪れている」と述べた。
<経済ブロックの構築>
こうした戦略は、中国の姿勢の変化に表れている。
中国は4月にトランプ氏の来訪を控え、外交官らが世界中を回り、多国間主義と自由貿易を共に守ろうと呼びかけている。1月には、トランプ氏が当初50%の関税を課した小国レソトにトップ外交官を派遣し、開発協力を約束した。
また、国営メディアが14日報じたところでは、中国はアフリカ53カ国からの輸入品に対して「ゼロ関税」を実施する。一方、中国は人工知能(AI)を活用した税関システムを近隣諸国に提案し、商取引を支えるデジタルインフラの再構築にも取り組んでいる。
これらの動きは政策論文で示された目標を裏付けている。つまり、米国が圧力をかけてもパートナー諸国が中国とのデカップリング(切り離し)を選択できないほど、中国をグローバル貿易に深く埋め込むことだ。
CASS米国研究所の研究員は2024年の論文で、米国に対抗する上で「アンチ・デカップリング」を焦点に据えるべきだと記している。
中国は2017年以来、ホンジュラス、パナマ、ペルー、韓国、スイスなどの国々と貿易交渉を続けてきたが、現在は締結の加速に取り組んでいる。
中国の王毅外相は昨年11月、エストニア外相との会談で、欧州連合(EU)との自由貿易協定の可能性に言及し、欧州の交渉担当者を驚かせた。
その1カ月後、王氏は湾岸協力会議(GCC)に自由貿易協定の妥結を促した。今年1月には、スターマー英首相が習近平国家主席と、サービス貿易協定の実現可能性調査の開始に合意。ドイツのメルツ首相も、来週の訪中時に中国との「戦略的パートナーシップ」を模索すると表明している。
中国の王文涛商務相は、包括的・先進的環太平洋連携協定(CPTPP)への加盟を優先事項に掲げた。
しかし中国の巨大な貿易黒字がCPTPP加盟を複雑にしている。一部加盟国は、中国の内需低迷が続く中で、同国がアクセス改善を利用して安価な製品を海外にあふれさせることを懸念している。
オバマ前米政権下で環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の首席交渉官を務めたウェンディ・カトラー氏はロイターに「巨大な貿易不均衡に加え、日本のような国々に対して現在行っている威圧的な措置を踏まえれば、中国が言ったことを実行するとは考え難い」と語った。
欧州の上席貿易外交官は、中国の働きかけは「純粋なプロパガンダ」だと一蹴し、EUが中国と自由貿易協定を結ぶ計画はないと述べた。
<米国に学ぶ>
一部の政策論文は、国際機関を「武器化」して中国を封じ込めてきた米国の戦略を研究すべきだと主張。その上で、世界貿易機関(WTO)のような国際機関を放棄、あるいは軽視するトランプ氏の姿勢によって生じた「すき」を突くべきだとしている。
「一帯一路」などを通じ、知的財産などの分野で世界標準の確立に影響を振るうべきだ、と主張する論文もある。
中国は現在、こうした知見を実践に移している。例えば最近更新された東南アジア諸国連合(ASEAN)との協定はAI主導の貿易やデジタル貿易に焦点を当てており、この分野で先駆者としての利益を確保したい考えだ。
<内需回復が課題>
HSBCのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は、中国の貿易相手国は、中国が消費を回復させることを切望していると話す。
王商務相は3月に次期五カ年計画の発表を控え、輸入拡大が優先事項だと語った。国内総生産(GDP)に占める消費の割合を増やす方針に沿った発言だ。
しかし経済構造の再構築は長期的なプロジェクトだ。トランプ大統領の任期は残り3年であり、次期政権が再び中国を封じ込めるための同盟構築に回帰する可能性もある。
CASS米国研究所の研究員、ジャオ・プー氏は中国人民大学に在籍していた2023年、「激化の一途をたどる戦略的攻勢に、より良く対応するためには、国際機関内における米国の行動原理と、米国の次の一手を深く研究しなければならない」と記した。
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