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フォトログ:美の基準に挑む、日本の「筋肉女子」 

2025年11月19日(水)18時42分

東京の繁華街の地下にあるバー。スポーツブラとタイトなショートパンツを身にまとった12人の女性が、コの字型カウンターの後ろに並び、見事な筋肉を惜しげもなく見せながら、素手でグレープフルーツを一斉に握りつぶした。写真はダンスで筋肉を披露する筋肉女子の店長、針替ひとみさん(38)。7月25日、東京で撮影。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Kim Kyung-Hoon Satoshi Sugiyama

[東京 13日 ロイター] - 東京の繁華街の地下にあるバー。スポーツブラとタイトなショートパンツを身にまとった12人の女性が、コの字型カウンターの後ろに並び、見事な筋肉を惜しげもなく見せながら、素手でグレープフルーツを一斉に握りつぶした。

大音量で音楽が鳴り、鮮烈なピンク色の背景にネオンがまたたく。フィットネスをテーマにしたバー「筋肉女子」の客たちは、その儀式をスマートフォンで撮ろうと歓声を上げながら押し合いへし合いになった。

「日本では、胸が細くて、背中が華奢で、足が華奢っていうタイプの子が一般的に可愛いって言われる」と、女性パフォーマーしかいないこのバーのマネージャー、針替ひとみさんは語る。「ここに来るお客さんは違う」

女性らしさの既成概念に挑むこの店は2020年半ばの開店以来、交流サイト(SNS)で話題となり、平均で1日約100人を集客。客の大半は外国人観光客だ。

料金は80分で6000円。プロテインドリンクと酒の飲み放題が含まれ、筋肉を鍛え上げたスタッフがステージショーを披露。ヒョウ柄のビキニを着たスタッフが懸垂やポールダンスで笑顔を見せる。

客は追加料金で、頬を強く平手打ちされる、太腿で持ち上げられる、といった「おまけ」も頼める。

「女性は筋肉質でもいい。小柄で大人しく、場所を取らない存在である必要はない」。米カリフォルニア州ロサンゼルスからショーを見に来たオーブリー・リーさんは言う。

主要先進国の中で、日本は痩せ型の成人女性の比率が最高水準だ。経済協力開発機構(OECD)によれば、BMI(体格指数)に基づくやせ型女性の割合は約9%に達し、米独の約5倍にあたる。

今年、肥満を研究する日本の医師や学識者の委員会は、女性の細さイコール美という通念が低栄養などの健康問題を招いており、対策が必要だと警鐘を鳴らした。

その「通念」に背を向けるのが、ボディービルやクロスフィットに情熱を注ぐ筋肉女子のスタッフ約30人。中には多くの男性をもたじろがせるシックスパック(6つに割れた筋肉)の腹筋を見せる者もいる。

「今のままの自分でいいんだって心底思えたというか、自己肯定感が爆上がりしたのを今でも覚えています」。38歳になる針替さんはバーに入った当初を振り返ってそう語る。

針替さんにとって筋肉女子は、姉妹のような連帯感を育む場。女性同士で、食事と栄養やトレーニングのコツを情報交換する。休みの日でも同僚と食べ放題の店やネイルサロンに足を運ぶという。

日本では近年、女性のボディービルの人気が高まり、各地で大会が開かれる。ただ、その輪を一歩出れば、古い通念がいまだ支配的だと針替さんは言う。

「学生時代の友人と話すと、未だにステレオタイプにとらわれていると強く感じる。細くなりたい、体重を減らしたいって、みんな言う」

一部はジェンダーのステレオタイプに根差すそうした見方は、少しずつ変わってきている。

電通総研が23年に実施した調査では、「男は男らしく、女は女らしくあるべきだ」と答えた人は38.2%。21年の43.7%から低下した。

「女性の美は、細さだけではない」と、23年に店に加わった森谷祐香さんは語る。ボディービルやポールダンス、身体を動かすことへの同僚の情熱に刺激を受けてきたという。

「筋肉の美しさをもっと(多くの人に)知ってほしい」。ボディービルディングの大会で優勝し、いずれは日本一になることを目指す森谷さんはそう付け加えた。

ロイター
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