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アングル:中国がCOPで主導的役割、米国不参加で脚光

2025年11月17日(月)14時21分

ブラジルのベレンで開催された国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)で、中国パビリオンの前を歩く出席者。11月14日撮影。REUTERS/Adriano Machado

Valerie Volcovici Lisandra Paraguassu

[ベレン(ブラジル) 15日 ロイター] - 国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に初めて参加しなかった米国を横目に、中国が地球温暖化対策を主導する国として脚光を浴びている。

ブラジル・アマゾンの都市ベレンで開催されているCOP30の広大な会場。中国のパビリオンは、入り口付近で圧倒的な存在感を放っている。中国の大手クリーンエネルギー企業の幹部は満場の聴衆に向け、英語でグリーンな未来への構想を提示。舞台裏で協議のお膳立てに活躍するのは中国の外交官らだ。

これらはかつて米国の役割だった。

「水はすき間へと流れるが、外交も往々にして同じだ」と語るのは、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のフランチェスコ・ラカメラ事務局長だ。再生可能エネルギーと電気自動車(EV)分野における中国の優位性が、気候外交における中国の立場を強化していると解説した。

かつてCOPにおいて目立たない存在だった中国が中心的役割を担う国へと変貌を遂げた背景には、気候変動を否定するトランプ米大統領の姿勢がある。

トランプ氏はパリ協定から米国を再び脱退させ、今年はCOPが始まって30年の歴史の中で初めて高レベル代表団を派遣することを拒否した。

この方針を批判する人々は、米国が参加を見送ることで、気候交渉における貴重な立ち位置を譲り渡すことになると指摘する。

カリフォルニア州のニューサム知事(民主党)は11日にCOPを訪れ、「中国はよく分かっている」と発言。「中国がこの世界で、サプライチェーン(供給網)で何を行い、製造業をどう支配し、市場をどう席巻しているか。そのことに我々が目覚めなければ、米国の競争力は終わりだ」と訴えた。

<美しい世界>

中国のパビリオンでは、持続可能な中国産シングルオリジンコーヒー、パンダの玩具やグッズが通行人をひきつけ、中国当局者や世界最大の再生可能エネルギー企業幹部がプレゼンテーションを行う。

世界最大の車載電池メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)の孟祥峰副社長は13日、「気候変動対策で協力を推進し、ともにクリーンで美しい世界を築こう」と訴えた。

同日午後には、中国の李高・生態環境次官が満員の聴衆に対し、中国が再生可能エネルギーの世界最大の生産国であることが「各国、特にグローバルサウス諸国に利益をもたらしている」と述べた。

中国のEV大手、比亜迪(BYD)はブラジルの自社工場で製造したバイオ燃料に対応するプラグインハイブリッド車(PHV)を披露した。

<舞台裏>

COPの交渉に関与した現職または元外交官らによると、中国は会議の舞台裏で巧妙な役割も果たしている。合意に向けて各国政府をまとめてきた米国の不在を埋める形だ。

ある新興国の上級外交官は「中国は徐々に、気候対策体制を支える存在になりつつある」と指摘。「中国はグリーン経済に多大な投資をしており、もし体制が逆行すれば損失を被ることになる」と話した。

ブラジルの外交官は、過去の中国は自国にとって重要な問題にしか関与しなかったが、COP30では交渉開始前から合意形成に向けて重要な役割を果たしたと述べた。

米国の気候問題担当副特使を務めたことがあり、パリ協定の主要な設計者でもあるスー・ビニアズ氏は、中国にはBRICSのような主要新興国から小国に至るまで、発展途上世界の多様な利害関係を集約する能力があると指摘。「中国は米国と同じく、非常に強硬な姿勢を取る傾向があるが、最終的には現実的になる」と語った。

ただビニアズ氏は、中国がCOP以外の場所で主導的役割を果たしているとはまだ確信していない。中国は9月、2035年までに温室効果ガスの排出量をピーク時から少なくとも7%削減する目標を発表したが、本気で主導的役割を果たすつもりなら「もっと野心的な削減目標を示していたはずだ」という。

だがCOPにおける中国を長年観察してきたアジア・ソサエティ政策研究所・中国気候ハブのリー・シュオ所長は、中国の技術的立場自体が、政治的リーダーシップを示すものだと反論する。中国企業が国連の公約達成を現実に可能にしているからだという。

「COPで最も声の大きい国が、(気候変動対策において)最も強力な国ではない。実際に低炭素技術を生み出し、投資している国こそが最も強力だ」とシュオ氏は語った。

ロイター
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