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アングル:米FRBの誘導目標金利切り替え案、好意的反応の一方で逆風も

2025年10月24日(金)17時04分

 10月23日、米ダラス地区連銀のローガン総裁が先月、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策運営において操作対象とする金利をフェデラルファンド(FF)レートからトライパーティ一般担保レート(TGCR)金利に変更するよう提案したことに、好意的な反応が寄せられている。ワイオミング州ジャクソン郊外で2022年8月撮影(2025年 ロイター/Jim Urquhart)

Michael S. Derby

[23日 ロイター] - 米ダラス地区連銀のローガン総裁が先月、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策運営において操作対象とする金利をフェデラルファンド(FF)レートからトライパーティ一般担保レート(TGCR)金利に変更するよう提案したことに、好意的な反応が寄せられている。ただ、FRBの量的引き締め(QT)終了を数カ月後に控え、来年にはパウエルFRB議長の交代も予定されている時期だけに、実現への道のりは遠そうだ。

FRBは2007―09年の金融危機以降、大規模な資産買い入れに乗り出した。この影響で、銀行がオーバーナイトで資金を貸し借りするFF市場の取引はほぼ枯渇。バークレイズの推計では、TGCR市場の取引が1日当たり1兆ドルを超えるのに対し、FF市場は1000億ドル程度にとどまっている。

このためローガン氏は、TGCR金利の方がFF金利よりも市場環境のバロメーターとして優れており、FRBはTGCR金利を誘導対象にした方が経済全体に影響を及ぼせると主張した。

誘導対象をTGCRに切り替えても、FRBは市場からの資金吸収手段「リバースレポ・ファシリティー」と常設の短期資金供給制度「スタンディング・レポ・ファシリティー(SRF)」を使い続けられる見通しだ。

ローガン氏は、QTの進行に伴って短期金利のボラティリティーがさらに上昇しかねないとし、誘導目標を切り替える好機だと述べた。パウエルFRB議長は今月の講演で、QTが数カ月以内に終了するとの見通しを示している。

元FRB上級職員で現在はデューク大学に所属するエレン・ミード氏は、ローガン氏の案には「利点があり」、「タイミングも良いかもしれない」と述べた。ニューヨーク連銀のダドリー前総裁も「完璧に合理的」な提案だとした上で、誘導目標の変更は技術的なものであり、金融政策の実際の運営方法が変わるわけではないと言い添えた。

<実行への逆風>

過去にニューヨーク連銀で公開市場操作を司っていたローガン氏は、金融調節について大きな影響力を持つが、今回の提案にどれほどの求心力があるかは定かでない。

第一にFRB当局者らはこれまで、経済に対する影響力の大きさなどの点でFF金利が優れていると主張してきた。大半の短期金利は同じ方向に動くため、TGCRに切り替える利点はないとの声もある。パウエル議長も今月、現状維持を支持するような発言をした。

また、TGCRは納税日や月末、期末などのイベント前後にFF金利よりも大きく変動するため、「シグナル」と「ノイズ」を見極めにくいとの指摘もある。

ライトソンICAPのアナリストらは最近のリポートで「FRBは、新たな操作対象に移行する可能性に備えた頑強な緊急時対応計画が明らかに必要だ」としながらも「将来の様子がもっと明確になるまで詳細に関する最終決定は待った方が良さそうだ」との考えを示した。

パウエル議長が来年5月に任期を迎えることも、移行の障害となる可能性がある。一部のFRBウォッチャーは、ターゲット金利を巡る決定はFRBのバランスシート運営方法とも結びつくため、次期議長の就任まで見送られるかもしれないと述べた。

ロイター
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