ニュース速報
ワールド

インタビュー:外交で「高市カラー」は難易度高い、外国人政策優先か=東大・佐橋教授

2025年10月22日(水)13時28分

 国際政治が専門の佐橋亮・東京大学教授はロイターとのインタビューで、高市早苗新首相は政権基盤が弱いことから外交で独自色を発揮するのは難易度が高いとし、外国人問題など国内立法で対処可能な政策を優先して保守色の強い「高市カラー」を出そうとする可能性があるとの見方を示した。写真は21日、都内で代表撮影(2025年 ロイター)

Kentaro Okasaka

[東京 22日 ロイター] - 国際政治が専門の佐橋亮・東京大学教授はロイターとのインタビューで、高市早苗新首相は政権基盤が弱いことから外交で独自色を発揮するのは難易度が高いとし、外国人問題など国内立法で対処可能な政策を優先して保守色の強い「高市カラー」を出そうとする可能性があるとの見方を示した。

韓国で来週予定される米中首脳会談で台湾問題が議題に上るとみられることに関しては、トランプ大統領が仮に中国側に譲歩する姿勢を取っても、高市政権が及ぼせる影響力は極めて小さいと語った。

―高市新首相の外交政策の方向性をどう見るか。

日本維新の会との連立政権合意書に「自立する国家」と書かれている。高市氏自身もかなり保守的な国家観を持っており、外交においても言うべきことはしっかり言うというスタンスだろう。ただ、外交日程が差し迫っている中、最初から本領発揮する準備ができるわけもなく、安全運転でいくだろうし、いかざるを得ないだろう。

対米関係の維持と国際舞台でのデビューをそつなくこなすことが最初のハードルだ。維新との連立も閣外協力にとどまっていて、政権基盤も党内基盤も弱く、安全運転を超えていくにはそれなりの時間を要するだろう。

―注目すべき閣僚人事は。

腹心の42歳の小野田紀美参院議員を経済安全保障相として初入閣させた。(総裁選の)恩賞という面もあるだろうが、自分の忠実なスタッフ、閣僚をつくったということだ。外国人政策も担当し、外国人の土地取得問題やビザ、中国人留学生の扱いといった外国人問題が「取り組みやすい対外政策」として登場してくることはあり得る。基盤の弱い首相からすると、難しい米中韓外交よりも、国内立法でできるところから先にやって保守色、高市カラーを出すことはあり得るだろう。

一方、茂木敏充外相や赤沢亮正経済産業相は以前にトランプ米大統領と(貿易や関税交渉で)向き合った経験があり、何が出てくるか分からない怖さを知っている。今回の政権に対して世間が比較的懸念しているのはトランプ氏との相性だ。対米関係を最初から揺さぶっても支持率が上がることはなく、外交音痴に見えてしまう。だからこそ経験値の非常に高いこの2人を起用したのは、かなり良い布陣なのではないか。

―懸念の声もある対中韓外交については。

中国に対しては、(日本国内の)中国人問題と中国への動きは異なるだろう。今この段階で中国に厳しく出る合理的な必然性はない。中国の方がむしろ日本との外交をしたがっているからだ。国内では経済が落ち目だし、軍幹部が規律違反で党籍剥奪処分を受けるなど政治的に混乱している。こうした中で中国としては日中韓も日中関係も進めたい。合理的に考えて中国とけんかをする理由はないということは分かっているだろう。

韓国に関しても、進歩系の李在明政権も日本を見てくれており、ここでもけんかをする必要はない。逆に、自分から状況を悪くするとトラップにはまってしまう。相手との押し問答になり、作用反作用の法則でどんどん状況が悪化し、その責任で詰め腹を切らされるかもしれない。外交でそんなことをやるほどの政権体力はない。

―トランプ氏は、来週の習近平国家主席との会談で台湾問題が議題に上ると想定していると語った。米国が台湾の独立を巡るスタンスを調整する可能性はあるか。高市政権はどう対応すべきか。

台湾の独立に反対すると明言するとか、台湾の統一に関して中国政府の取り組みを肯定的に評価するとか、台湾への武器売却について何か言ってしまうとか、こういったことをトランプ氏に公開の場で言われてしまうと非常に良くない。習近平政権にとっては、仮に台湾関係で新たなポジティブな要素を引き出せたら大きな成果になる。習氏の正当性を高めるし、台湾の政治にも非常に大きな影響を及ぼす。ただでさえ落ち目の頼清徳政権を背後から撃ってしまうことになる。だが、こういったことに対して他国が及ぼせる影響はない。

トランプ氏の同盟観は、完全に道具だ。金づちのようなもので、金の小づちのように振ってお金が出てくるとうれしいし、誰かをたたく時に使えたらうれしいが、道具がしゃべったらおかしいし、そんな道具は意味がない。まして高市氏が初っ端で何か言っても聞く相手ではない。

台湾海峡の平和と安全のような話を言ってもらうのが関の山だが、米中のディールには関係しない。米朝関係も同じで、トランプ氏が(金正恩総書記と会うため)板門店に行くと言っても止められない。日本が及ぼせるレバレッジは極めて小さく、むしろ新たな状況にも対応できる準備が必要になる。

(聞き手・岡坂健太郎 編集:久保信博)

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ハイネケン、25年ビール販売「小幅減」に下方修正 

ワールド

タイ中銀、金融緩和維持へ 景気回復を支援=議事要旨

ワールド

外相と協力して日米関税合意の実施に取り組む=赤沢経

ワールド

クリントン元大統領の証言調整、エプスタイン氏との関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中