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インタビュー:高市トレード、円金利スティープ化は行き過ぎ 円ロングを解消=ブルーベイAM

2025年10月08日(水)18時36分

 英運用会社RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は、自民党総裁選を受けた「高市トレード」に関し、円金利のスティープ化は行き過ぎだと指摘、円ロング(買い持ち)ポジションの解消に動いたことを明らかにした。写真は高市新総裁。10月4日、東京で代表撮影(2025年 ロイター)

Tomo Uetake

[東京 8日 ロイター] - 英運用会社RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は、自民党総裁選を受けた「高市トレード」に関し、円金利のスティープ化は行き過ぎだと指摘、円ロング(買い持ち)ポジションの解消に動いたことを明らかにした。

ロイターの取材に7日、書面で回答した。主なやりとりは以下の通り。

──高市早苗新総裁誕生で、財政政策の見通しは。

「日本の債務残高対GDP比は極めて高水準にある。幸い、過去1年間で財政赤字と債務残高対GDP比は減少傾向にあったが、自民党総裁選で高市早苗氏が勝利したことで暗雲が漂い始めた」

「高市氏の政策は景気刺激と物価高騰で苦しむ人々への支援に重点を置いている。財政支出の増加は赤字を拡大させるが、その程度については、連立政権のパートナーや閣僚の顔ぶれによるだろう。麻生太郎氏の支持は高市氏に勝利をもたす決定的な要因となったが、麻生氏自身は消費税減税に反対の立場をとっている」

「とはいえ、われわれは財政拡張により基礎的財政(PB)赤字(対GDP比)が3.2%から、4%を超える水準まで拡大するとみている。もっと大幅に悪化するリスクもある」

「インフレ抑制が日本にとって主要なテーマの1つとして議論される時期に財政政策を拡張することは、かえってインフレを加速するリスクがある。日本の国債市場への信頼も損なう恐れがある」

「高市氏は日本のマーガレット・サッチャー(英国初の女性首相)を目指す考えのようだが、もし市場の懸念を無視するような選択をすれば(2022年のトラス・ショックを招いた英元首相の)リズ・トラスのような危機的状況に陥るリスクがある」

──高市氏は利上げに慎重とされる。日銀の金融政策をどうみるか。

「日本のインフレ率は長期間、日銀が目標とする2%を上回っており、投資家は日銀がビハインド・ザ・カーブに陥っている(政策対応が遅れている)のではないかとの疑念を持ち始めている。このため日本国債のイールドカーブはロングエンドがスティープ化している」

「日銀は10月と来年初めに追加利上げを行うべきというのがわれわれの考えだが、金利政策の主導権を政府が握ることを望む高市氏の下では、その可能性は低そうだ。高市氏は低金利を維持したいと考えているが、これはインフレ圧力に拍車をかけるリスクがある。財政拡張も検討されている状況ではなおさらだ」 

「植田和男日銀総裁が高市氏の見解に反対することを恐れているように見えるため、日銀の利上げは1月まで先送りされる可能性が高いとみている。ただ、政策金利は時間をかけて中立金利である1.5%前後へと調整される必要がある。そうしないと、日本で高インフレが定着してしまう」

──日本の政局を受け、投資スタンスに変化は。

「金融緩和と財政政策の組み合わせは経済成長にはポジティブで、インフレをさらに押し上げる。日本株には追い風となる一方、日本国債と円にとっては逆風となる」

「まず為替だが、総裁選で小泉進次郎農相が勝利すれば円ロング・ポジションを拡大するつもりだったが、高市氏の勝利を受け、保有していた小規模な円ロングポジションを解消した。現在は円のポジションを持っていない。円はアンダーバリュー(割安)だが、高市氏のスタンスは円安をさらに加速する恐れがある」

「日本国債については、10年/30年のカーブのスティープ化はファンダメンタルズからみて既に行き過ぎと考えており、カーブのフラット化を見込むスタンス(10年債売り・30年債買い)を維持している。全体のポジションはショート(売り目線)に戻した。高市氏が掲げる政策ミックスに関しては、それがインフレに与える影響も含め、疑問を抱いている」

「日本株には強気の見方を維持しており、債券市場の懸念が株式市場に波及し始める兆候がない限り、楽観的だ。日本国債の利回りが過度に上昇し始め、債務の持続可能性への懸念が高まり、これが『日本売り』懸念を引き起こした場合、株式・債券・為替市場にとってよりネガティブな展開となる可能性がある。こうした政策上の過ちが避けられることを願っている」

(植竹知子 編集:石田仁志)

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