アングル:中国で高度成長期ファッション懐古のSNS投稿急増、現状への不満を反映か

中国では、若者の就職や収入への期待がしぼむ中、SNS上で20年前の高度成長期のファッションや文化を懐古する投稿が急増している。写真はモデルにメイクを施す美容師。2009年4月、中国山西省の太原市で撮影(2025年 ロイター)
Marius Zaharia Claire Fu
[香港/シンガポール 1日 ロイター] - 中国では、若者の就職や収入への期待がしぼむ中、SNS上で20年前の高度成長期のファッションや文化を懐古する投稿が急増している。アナリストによると、これは当局の検閲を免れつつ経済の現状に不満を示す動きだ。
この夏、「#経済上行時期的美麗」(経済上昇時の美しさ)というハッシュタグが急激に広まった。2000年代初頭のセレブが派手な衣装とメイクを施した写真やミュージックビデオ、テレビ広告を投稿するタグだ。中国版インスタグラムの小紅書では「#経済上行時期的美麗」を付けた投稿が合計5000万回近く閲覧された。拡散の時期は、ちょうど1220万人の大学生が卒業を迎えた時期にあたる。
今年の新卒は、新型コロナ禍を除いて数十年ぶりの厳しい就職難に見舞われている。中国経済は米国の貿易関税、デフレ、産業界の過剰設備、そして国内消費の低迷と踏んだり蹴ったりだ。
今年の中国経済は約5%ペースの成長を遂げているが、アナリストによるとこれは「二極化経済」だ。製造業と輸出が強い一方、家計はあえいでいる。成長率は、2001―10年の半分に減速した。
「経済は循環するが、青春は二度と戻らない」。SNSではこんな投稿が広く拡散された。
中国共産党は国内メデイアとSNSを厳しく検閲しており、経済状態に批判的だったり、暗に政策当局を批判したりしていると見なした報道や投稿を定期的に削除している。
メディア対応を行う国務院新聞弁公室はコメント要請に応じなかった。
コンサルタント会社、アパーチャーチャイナの創業者ヤリン・ジャン氏のデータ分析によると、大半の投稿はミレニアル世代の女性が、今より就職も消費も選択肢が豊富だった20代の頃を振り返るものだ。しかし、投稿に反応しているのは、当時より選択肢が限られる今の若者だという。
「こうした投稿が注目されている時期を考えると、大卒という学歴の価値の低下や、この夏の新卒が直面する就職難に対する幅広い不満への反応である可能性が高い」とジャン氏は語った。
中国当局の検閲を調査するチャイナ・デジタル・タイムズ(米国)の創業者、シャオ・チャン氏は「メイクやファッションなど日常的な記号を使って、経済の衰退と生活のプレッシャーへの不満を何気なく表現している」と指摘。大半のユーザーは中国の近過去の美に関する意見を投稿し、明るい感情を表現しているため、当局にとって「手を出しにくい」と説明した。
「経済的な繁栄に対する懐古によって、間接的な批判をするという雰囲気が生まれている。これは、経済に関する公式的見解への国民の信頼感を静かに損なうかもしれない」と語った。
<飛びつく企業>
ジャン氏によると、ジョルジオ・アルマーニやエスティ・ローダー、トム・フォード、ヴァレンティノといったファッションブランドは過去30日間に小紅書のこうした投稿に広告を紐づけた。
アリババ傘下の電子商取引サイト、淘宝網(タオバオ)では10以上の店舗が、このハッシュタグを使って衣類を販売している。
ブロガーは、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の「ミレニアル・ローズ」シャンプーや、ナイキが「蘇るミレニアル・クラッシック」と宣伝する厚底スニーカーを宣伝する。
ロレアルの化粧品ブランド「メイベリン」は「経済上行の美と力強さを感じよう」というキャッチフレーズで明るめの色の口紅に力を入れている。
しかし、中国の街角で2000年代のファッションやメイクが流行しているわけではない。ジャン氏によると、企業のマーケティングチームはSNSのトレンドに便乗してブランドの認知に利用するだけで、新たに2000年代風のコレクションを投入するわけではない。
「経済上行」のハッシュタグで投稿するファッションブロガーも、そのスタイルは現在の経済ムードを反映することが多いという。例えば今年のメイクのトレンドは、保守的で控えめな「グラススキン(ガラスのような透明肌)」だ。これに対して2000年代は、メタリックなトーンや光沢のある仕上げ、パールブルーやパールグリーンのアイシャドウで未来感を出すメイクが流行した。
あるファッションブロガーは「メイクは、経済成長期には、高価に見えて、キャリアアップや楽観主義から生まれる輝く自信を表すものになる」と書いている。