アングル:発達障害の人々に広がるAI利用、「他者との対話」容易に 依存リスクも

7月26日、南アフリカ・ケープタウンを拠点としているホラー映画監督のケイト・ドットマンさん(40)にとって、作品を通じて観客とつながることはごく自然なことだ。それよりもはるかに困難なのは、他人との会話だという。写真は人工知能の文字と人形のイメージ。2023年3月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
Hani Richer
[26日 ロイター] - 南アフリカ・ケープタウンを拠点としているホラー映画監督のケイト・ドットマンさん(40)にとって、作品を通じて観客とつながることはごく自然なことだ。それよりもはるかに困難なのは、他人との会話だという。
「人々がどのように社会的な『合図』を受け取って解釈しているのか、理解できたためしがない」
ドットマンさんには自閉症と注意欠陥・多動性障害(ADHD)があり、他人との関わりは非常に疲れる、困難なことだと感じている。2022年以降、職場やプライベートでのコミュニケーションの壁を乗り越えるため、米オープンAIの対話型人工知能(AI)「チャットGPT」を日常的に利用するようになったという。
「機械だと分かっている。だが正直なところ、私の人生で最も共感してくれる声だと思うこともある」
自閉症やADHDなどの発達障害、ディスレクシア(失読症)などの学習障害がある人々は「ニューロダイバージェント(神経多様性を持つ人々)」とも呼ばれる。同僚との会話や友人とのやり取りといった場面で相手の意図をくみ取れなかったり、意図しない印象や誤解を与えてしまうなど、社会との「ずれ」を経験することがある。
AIチャットボットは、社会における様々な場面をリアルタイムでサポートしてくれる、意外な味方として台頭した。過度の依存などリスクを危惧する声はあるものの、いまや多くのニューロダイバージェント当事者が、この技術を命綱のように考えている。
実際、どのように使われているのだろうか。ドットマンさんにとってチャットGPTは、編集者であり、通訳であり、信頼できる友だ。以前は、一般的な場でのコミュニケーションは難しさを伴うものだったと話す。社内改善の方法を提出するよう上司から求められた際、分かりやすい返事を送ろうと箇条書きにしたところ、あまりに直球で失礼だと受け取られてしまった、と振り返った。
今では度々チャットボットに文章を見せ、会話のトーンや文脈を相談している。時には心理学者やセラピストの役割を担うよう依頼し、親友との間に生じた微妙な誤解を解く方法を尋ねることもある。チャットボットに数カ月分のメッセージをアップロードし、見逃していることがないか見つけるよう求めたこともある。チャットボットは人間と違って前向きで偏見がない、とドットマンさんは語った。
こうしたAIとの距離感には、多くのニューロダイバージェントから共感の声が上がる。英南部ケントの営業研修事業でシニアプロジェクトマネージャーを務めるサラ・リックウッドさんも自閉症とADHDがある。他人との会話中に思考が暴走し、相手を見失うことがあると吐露した。
「自分の考えを正しく表現できていないと感じた。(チャットGPTの助けを借りて)自分の脳をうまく使えるようになったと思う」と話し、メールや商談をより明確にまとめることができるようになったと明かした。
AI搭載ツールの利用者は急増している。グーグルと調査会社イプソスが今年1月に行った調査は、AI利用が前年比48%増加しており、実用的な利点への期待が潜在的な悪影響への懸念を上回っていると指摘した。オープンAIは2月、週間アクティブユーザーが4億人を突破し、うち少なくとも200万人が有料のビジネスユーザーだと発表した。
ニューロダイバージェントのユーザーにとって、AIは単なる便利ツールにとどまらない。既に、こうしたコミュニティーを念頭に置いたAIチャットボットが生み出されている。
豪ニューカッスルのエンジニア兼起業家、マイケル・ダニエルさんは娘が自閉症と診断され、自身も同じ診断を受けたことで、いかに自身の特性から目をそらしてきたかに気付いたと明かした。健常者の妻や家族とより明確なコミュニケーションを取りたいという願いが、AI搭載型パーソナルアシスタント「ニューロトランスレーター」の開発につながったという。会話を全て理解して処理し、誤解を避ける上で、このアプリが役立っていると話す。
ある日、妻の服装を見て「わぁ…個性的なシャツだね」と言った時のことをダニエルさんは振り返った。当時、この言葉がどう受け取られるか考えていなかった。発言をニューロトランスレーターで翻訳するよう妻に言われ、人の外見に関する発言は肯定的な言葉を添えなければ批判に取られる可能性もあると気づいたという。
「感情的なわだかまりが、このアプリを使えば数分で消えることもある」
ダニエルさんによると、ニューロトランスレーターは昨年9月のリリース以降、200人以上の有料会員を獲得している。前身であるウェブ版の「自閉症トランスレーター」は有料会員が500人に達していたという。
技術革新が進む一方で、過度な依存を警告する声もある。英ロンドンのコンピューター科学者ラリッサ・スズキ氏は、要求に応じて答えを得られる機能は「非常に魅力的だ」と理解を示す。米航空宇宙局(NASA)の客員研究者でもあるスズキ氏は、自身もニューロダイバージェントの一人だという。
だが、AIがなければ機能できない状態に陥ったり、技術そのものの信頼性が損なわれた場合、過度な依存は有害になり得る。実際、AI検索エンジンの多くで既にその兆候が見られると、米コロンビア・ジャーナリズム・レビューの最近の調査は指摘している。
「AIが物事に混乱を生み、誤ったことを言うようになったら、人々は技術だけでなく自分自身のことも見放してしまうかもしれない」とスズキ氏は指摘した。
AIアドバイザーで「Zero to AI(原題)」の共著者であるジャンルカ・マウロ氏も、AIチャットボットに心をさらけ出すことはリスクも伴うと危惧する。
「(チャットGPTのようなAIモデルの)目的はユーザーを満足させることにある」とし、AIがすすんで批判的なアドバイスも行うだろうかとマウロ氏は疑問視する。セラピストとは異なり、AIには倫理規定や専門的なガイドラインもないと指摘し、AIに中毒性が認められれば規制が必要だと述べた。
オープンAIを資金面で支援するマイクロソフトと、米カーネギーメロン大学の最近の研究では、生成AIへの長期にわたる過度な依存は、ユーザーの批判的思考力を損ない、AIなしでは問題を処理できない状態に陥る可能性があることが示唆されている。
「AIが効率性を向上させる一方、特にユーザーが日ごろからAIに頼りきりの場合、批判的思考の関与が低下することになりかねない」と研究者らは指摘した。
臨床心理学者で人間行動を専門とするメラニー・カッツマン博士は、ニューロダイバージェントのAI利用にはプラスの側面があるとしつつ、他人との関わりを避ける言い訳を与えかねない、といった欠点を挙げる。
セラピストは患者に、自分の「コンフォートゾーン(心理的に安全と感じる領域)」から離れた場所で違った挑戦をするよう勧めることもある。「AIが同様にユーザーを後押しするのは、それよりも至難の業だと思う」とカッツマン氏は言う。
だが、AIを信頼しきっているユーザーからすれば、そのような懸念は机上の空論だ。
前述のドットマン氏は「私たちの多くは、結局社会から自分を切り離してしまう」と、自閉症と診断されてから1年間、家に引きこもっていた自身の経験を重ねる。もしチャットGPTを手放したら、トラウマ(心的外傷)になっている孤独に苦しんだ時期に戻ってしまうのではないかと恐れているという。
「ずっと障害と闘ってきた身として、私にはこれが必要なのだ」
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