ニュース速報

ワールド

アングル:有事に危うい台湾の通信インフラ、整備に高いハードル

2023年03月18日(土)08時55分

3月15日、台湾が、中国に侵攻された場合に外界と通信できる手段を確保しようと奔走している。台湾・馬祖島の南竿地区で2021年1月撮影(2023年 ロイター/Ann Wang)

[台北 15日 ロイター] - 台湾が、中国に侵攻された場合に外界と通信できる手段を確保しようと奔走している。ロイターが複数の専門家や当局者に取材したところ、重要な海底ケーブルの復旧は平時でさえ迅速に進まないことや、バックアップの通信衛星網も整備されていないという厳しい現実が浮かび上がってきた。

中国は台湾への武力侵攻を一貫して排除せず、近年は軍事的にも政治的にも台湾への圧力を一段と強めつつある。

そこにウクライナの戦争が起き、台湾では安全保障強化の切迫感があらためて強まった。特に、中国によるサイバー攻撃、あるいは世界とのインターネット通信を支える14本の海底ケーブル切断への備えだ。

台湾国防部直属のシンクタンク、台湾国防安全研究院(INDSR)のアナリスト、ツェン・イスオ氏は、特にウクライナ戦争が始まって以降は、内外との戦略的通信に関する問題を考えると夜も眠れなくなると明かした。

解決策の1つとして当局が想定するのが低軌道衛星で、既に外国の衛星通信サービス企業を活用してインターネットサービスを拡充する2年間の試験プログラムを始動させている。

ドメイン管理を手がける台湾網路資訊中心(TWNIC)のケニー・フアン最高責任者によると、問題は台湾が使う衛星通信の回線総容量が海底ケーブルのわずか0.02%程度しかないこと。フアン氏によると、台湾では外資の持ち分を49%までに制限する厳しい規制が存在する一方、これといった優遇措置はないので、外国の衛星通信サービス企業に投資意欲を持ってもらうのに苦労しているという。

同氏は「外国企業向けの優遇措置はほとんど見当たらない。規制も変えなければならない」と述べた。

ウクライナはロシアに侵攻された後、実業家イーロン・マスク氏が率いるスペースXの衛星通信サービス「スターリンク」を各種通信に積極利用している。ただ台湾の国防専門家は、中国事業を抱える民間企業に依存する危険性を心配する。

INDSRのツェン氏は、マスク氏の米電気自動車(EV)メーカー、テスラが中国で車を販売している点に触れて「(台湾よりも)中国市場の方をマスク氏が気にかけるかどうかは分からない。(しかし)われわれは1社だけに運命を託すことはしない」と語った。

台湾政府高官ほか、別の関係者1人によると、総統を含む司令部が戦時に利用する通信チャンネルの強じん性を高める取り組みも進んでいる。

安全保障政策に携わる高官は、ウクライナのゼレンスキー大統領がソーシャルメディアで強力な存在感を示している事例を挙げて「われわれはゼレンスキー氏(の行動)を参考にしている」と述べた。

台湾数位発展部(デジタル発展省)は声明で、沖合の島々で衛星通信の試験プログラムを優先的に実行するとともに、年末までに周辺諸島でマイクロ波通信の帯域を拡大する方針を明らかにした。

<海底ケーブルのもろさ>

台湾の通信インフラの脆弱さを露わにしたのが、今年2月に台湾本島と馬祖島を結ぶ海底ケーブル2本が切れて、島民1万4000人がインターネットに接続できなくなった事案だ。

当局がこれまでに調査したところでは、中国の漁船と貨物船が切断したもようだが、中国政府の関与があったという証拠は見当たらなかった。

電気通信事業最大手、中華電信は台北の山の上から馬祖島にマイクロ波を送る予備の通信システムに切り替えたものの、ケーブルが提供していた容量のおよそ5%しか復旧できなかった。今月に入って政府がこのシステムを拡充し、インターネットの通信速度は格段に向上したものの、台湾にはケーブル修復船が乏しいため、住民のネット接続が完全復旧するのは4月終盤以降になるという。

安全保障問題に詳しい台湾政府高官の1人は、海底ケーブルのもろさはずっと前から安全保障上の懸念要素で、これまで根本的な解決策が打ち出されなかったのは本当に愚かだと憤り、「独力で海底ケーブルの修理もできない」と自嘲した。

与党民進党の馬祖島支部長を務めるリー・ウェン氏は、このケーブル切断は台湾全土に対する「警報」になったと指摘。「もし世界とつながっている14本のケーブル全てが破壊されたらどうなるだろうか。われわれは適切な準備ができているか」と問いかけた。

台北のシンクタンク、国策研究院で軍事分野の研究をしているチエ・チュン氏は「緊急時には人々は情報を欲しがる。それが手に入らないと、パニックが広がっていく」と話す。

TWNICのフアン氏は、ケーブルが切断されて起きる軍事的な影響は、情報の遮断とパニックにとどまらないと指摘。ケーブルを切断された場合、台湾側は中国が全面攻撃の正当化に使えないような対応を適格に実行することが難しいかもしれないと予想する。

このためフアン氏は、中国が全面的な侵攻の手始めに海底ケーブルを切ってしまうのはほぼ間違いないと予想した。

*カテゴリーを追加して再送します

(Sarah Wu記者、Yimou Lee記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=主要3指数が連日最高値、米中貿易摩擦

ワールド

ハマスが人質遺体1体を返還、イスラエルが受領を確認

ビジネス

NY外為市場=ドル軟調、米中懸念後退でリスク選好 

ワールド

UBS、米国で銀行免許を申請 実現ならスイス銀とし
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中