ニュース速報

ワールド

アングル:印首都で石炭使用禁止、バイオマス移行迫られる産業界

2023年01月28日(土)07時56分

 1月25日、インドの首都ニューデリーは毎年冬になると車の排気ガスや作物の切り株を燃やす際に出る粒子が空気中を漂い、有毒なスモッグに覆われる。写真は2022年11月、スモッグに煙るニューデリー(2023年 ロイター/Adnan Abidi)

[パニパト(インド)  25日 ロイター] - インドの首都ニューデリーは毎年冬になると車の排気ガスや作物の切り株を燃やす際に出る粒子が空気中を漂い、有毒なスモッグに覆われる。しかし今月から石炭の使用が禁止され、産業界はバイオマスへの移行を迫られている。

規制当局がロイターに語ったところによると、ニューデリーは世界で最も大気汚染が深刻な都市だが、周辺地域の中小企業1695社の約半数がバイオマスを利用。この割合は2020年調査時の15%未満から大幅に上昇した。

繊維リサイクル業の世界的な集積地であり、ニューデリーから100キロほど離れたパニパトの小規模工場のマネージャーは、「排気ガスの色やにおいで使われている燃料が分かる」という。「バイオマスに移行してから空気が良くなった」

空気の質的変化を数値化するのはまだ難しい。しかしシンクタンク科学環境センター(CSE)の20年の調査によると、パニパトで全ての石炭関連産業が転換した場合、硫黄酸化物の排出量が70―80%、窒素酸化物が40―60%減少すると試算されている。

ハリヤナ州北部のパニパトとその近隣都市では繊維のリサイクル、染色、食品加工などの業者が石炭からの切り替えを急いで進めた。

バイオマスは通常、農業廃棄物を原料とし、ペレットやブリケット(ペレットより大きな加工薪)に加工されている。排出量が削減できる上、農家は農業廃棄物を売ることも可能になると、業界関係者や規制当局者は期待を寄せる。

英政府が支援して実施した21年の調査によると、バイオマスは石炭よりも価格が14%安く、石炭からの移行はコスト削減につながる可能性もある。

<石炭の没落>

CSEの報告書によると、インドは2017年に石油コークス利用が禁止された後、首都圏で石炭が燃料の主役となった。しかし石炭は今やバイオマスにその座を譲りつつある。

パニパトの公害対策に携わっている市職員のカマルジート・シン氏によると、「17年に石油コークスが禁止されると、これを扱っていた業者の多くが石炭を取引するようになった」ものの、「今では数百もの石炭業者がバイオマス業に転換した」という。

規制当局によると、この地域では企業の約27%が天然ガスを、15%が電気を使っている。

インド・バイオマス・エネルギー産業連盟のモニッシュ・アフジャ会長は「中小企業にとっては天然ガスではなくバイオマスに転換する方が簡単だ。バイオマスの価格が安いからだ」と話す。

シン氏によると、パニパトで操業する398社の約81%がバイオマスに転換済み。20年には石炭の比率が56.2%だった。

パニパトの規制当局などによると、産業界はもみ殻など農業廃棄物の燃料利用を目指して実験を行っている。

<価格は上昇>

しかしバイオマスの取引業者や消費者は、石炭禁止後の価格上昇と農業廃棄物の供給の季節変動に懸念を示し、こうした要因がバイオマス燃料の全国的な利用を抑制していると指摘している。

西部の都市プネに拠点を置くオンライン市場バイオフューエルサークルでは、バイオマスブリケットの平均価格が2021年末の1キロ=5677ルピーから昨年末には7711ルピー(約1万2300円)へと36%も上昇した。

パニパトの企業オーナーは、ニューデリーでは石炭利用が禁止される一方、他の地域で同じ業界が石炭を使い続けられるため、コスト面で有利になると危惧を示した。「パニパトの産業界は石炭規制により競争が非常に厳しくなっている」と、同市の染色業協会会長のビム・ラナ氏は指摘する。

バイオフューエルサークルのハハス・バクシ最高経営責任者(CEO)氏によると「足元で供給量は総需要の3分の1から4分の1程度しかない」という。

英国の調査は、バイオマス取引プラットフォームの開発、貯蔵の改善、製造業に資金を投じる投資家への有利な条件での融資や低金利の適用を提言。「制約の克服には政府のはっきりとした政策支援が必要だ」と訴えている。

(Sudarshan Varadhan記者、Sarita Chaganti Singh記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中