ニュース速報

ワールド

アングル:年々威力増すハリケーン、気候変動の影響を読み解く

2022年09月28日(水)18時04分

 9月27日、米フロリダ州が、メキシコ湾を北上中のハリケーン「イアン」への警戒を強めている。 カテゴリー3のイアンは27日にキューバを直撃。全土に停電などの被害をもたらした。写真はイアンの上陸に備えてボートを運河から動かす漁師。26日、キューバ・ハバナで撮影(2022年 ロイター/Alexandre Meneghini)

Gloria Dickie

[27日 ロイター] - 米フロリダ州が、メキシコ湾を北上中のハリケーン「イアン」への警戒を強めている。 カテゴリー3のイアンは27日にキューバを直撃。全土に停電などの被害をもたらした。その後、さらに勢力を増して28日夜にフロリダ州に上陸する見通しで、高潮や大雨をもたらすと見られている。

先週にはカテゴリー4のハリケーン「フィオナ」が米自治領プエルトリコを直撃し、大部分で停電や断水を発生させた。フィオナは英領タークス・カイコス諸島や、バミューダ諸島、カナダの大西洋沿岸にも襲いかかり、カナダのインフラには数カ月の修復作業を要する深刻な被害が出た。

フィオナやイアンの威力や動きが気候変動の影響を受けているかどうか、科学者らはまだ決めかねている。だが、このような破壊的な嵐が年々悪化しているという強力な証拠が存在する。

以下にまとめた。

<気候変動はハリケーンに影響しているのか>

答えはイエスだ。気候変動によってハリケーンの降水量が増え、風も強くなり、それによって全体の威力が増している。また、暴風雨の動くスピードが遅くなり、一カ所に大量の雨を降らせるようになっていることも観測されている。

地球の気温は、もし海がなければ、気候変動の影響を受けてはるかに暑くなっていることだろう。しかし過去40年、温室効果ガスの排出の影響で生じた温暖化効果の約90%を海が吸収してきた。こうした熱のほとんどは海面付近に蓄積されている。この熱も、嵐や風の威力に拍車をかけている。

気候変動は、嵐による降雨量にも影響を及ぼしている。暖かい空気はより多くの水分を集める性質があるため、雲が限界まで水蒸気をため込み、豪雨をもたらす。

科学誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載された今年4月の研究によれば、歴史的に見ても多数の発生があった2020年の大西洋ハリケーン発生時期は、ハリケーン級の暴風による1時間あたりの降雨量が気候変動の影響で8─11%増大したという。

産業革命前の平均値と比較すると、世界の気温は摂氏1.1度、既に上昇している。 米海洋大気局(NOAA)の科学者らは、気温が2度上昇すればハリケーンの風速が最大10%増加し得ると推測している。

NOAAは、5段階のうち「カテゴリー4もしくは5」に分類される最も強い勢力に発達するハリケーンが今世紀中に10%増加するとも予測している。1851年から現時点まで、この水準に達した暴風雨は全体の5分の1以下だ。

<気候変動による影響は他にも>

気温上昇によって暴風雨を誘発しやすい環境が整う時期がより長期間になっているため、典型的なハリケーンの「発生時期」が変化している。また、歴史的にハリケーンが頻発する地域から、はるか離れた場所へも上陸するようになった。

NOAAによれば、米国内でハリケーンの上陸数が最も多いのはフロリダ州で、1851年以降120個以上が直撃している。しかし近年、威力がピークに達した状態で、以前に比べてはるか北に上陸する暴風雨も出現。科学者らは、こうした北上の動きが気温や海水温の地球規模での上昇に関連しているという可能性も指摘している。

この傾向はニューヨークやボストン、北京、東京といった中緯度の都市にも懸念材料になっている。フロリダ州立大学で大気の研究をするアリソン・ウィング氏は、これらの地域について、「インフラの備えがない」と指摘する。

2012年に米北東海岸部を襲ったハリケーン「サンディ」は、規模こそ「カテゴリー1」と小さいが、その被害額は810億ドル(11兆6700億円)と米国史上4番目の規模となった。

ハリケーンは通常、6月から11月にかけて北米で活発化する。夏場に温かい海水の状態が整ったあと、9月にピークを迎える。

しかし、ネイチャーコミュニケーションズ誌で8月に発表された研究によると、名前が付く暴風雨の中で一番初めに米国に上陸するものの上陸時期は現在では1900年に比べて3週間以上早まり、ハリケーンシーズンの到来は5月になっているという。

地球の反対側、アジアのベンガル湾でも同様の傾向が観測されている。科学誌のサイエンティフィック・リポーツによれば、同地では2013年以降、サイクロンが夏のモンスーンの時期に先駆けて、4、5月の早い時期から発生している。

気候変動が毎年発生するハリケーンの発生数にも影響を与えているかどうかは、定かではない。ある研究者チームは12月、ネイチャーコミュニケーションズ誌に北大西洋のハリケーン数が過去150年間で上昇しているとのデータを報告した。ただ、この研究はまだ途中段階にある。

<ハリケーンはどのようにできるのか>

ハリケーン発生には、暖かい海水と、水分を含む湿った空気という2つの条件が必要だ。暖かい海水が蒸発する際、その熱エネルギーが大気中へと移動する。これが風の勢いを強めていく。もしこれが無ければ、ハリケーンは威力を増すことなく、消滅していく。

<サイクロン、台風、ハリケーンの違いとは>

これらの大型の嵐は厳密には同じ現象だが、どこで、どのようにして形成されるかによって呼ばれ方が異なる。

大西洋や、北太平洋の北東部・中心部で発生するものは「ハリケーン」と呼ばれ、その風速は最低でも時速74マイル(119キロメートル)に達する。その速度に満たないものは「熱帯暴風雨」として知られている。

東アジアでは、太平洋北西部にまたがって発生するものは「台風」、インド・南太平洋地域では「サイクロン」と呼ばれている。

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中