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焦点:進む「要塞化」、沖縄が日本復帰50年 対中国の最前線に

2022年05月13日(金)11時27分

Members of the Japan Ground Self-Defense Force (JGSDF) conduct a military drill next to an anti-ship missiles unit, at JGSDF Miyako camp on Miyako Island, Okinawa prefecture, Japan April 21, 2022. Picture taken April 21, 2022. REUTERS/Issei Kato

Tim Kelly

[宮古島市 13日 ロイター] - 仲里成繁(せいはん)さんが営むメロン畑のすぐ横にはフェンスがそびえ、その向こうにミサイル発射装置を備えた車両が並ぶ。2019年3月に陸上自衛隊の駐屯地が配備されて以降、沖縄県宮古島の中央部に広がる静かな農業地帯には、訓練に励む隊員の声が響くようになった。

もし中国と戦争になれば軍事施設は標的になりかねず、仲里さんは国が住民の意志を侵害しているとして今も声を上げて基地に反対している。しかし、島民の中では少数派だと仲里さんは感じている。

「宮古島という小さな生活圏の中で色々なつながりがある」。68歳の仲里さんはビニールハウスの横でそう語った。「子どもや親せきが自衛隊の隊員ということもあり、つながりが狭い。本音では反対と思っていても、声にはなかなか出せないところが難しい」

1972年まで米国の統治下にあった沖縄は、15日に日本本土復帰50年を迎える。第2次世界大戦の激戦地で暮らす人たちは、40年以上農業に携わる仲里さんをはじめ、平和を願い続けてきた。しかし、この半世紀で経済成長を遂げた中国が軍事的にも台頭し、台湾に近い南西諸島は再び戦火に巻き込まれるリスクに直面している。

玉城デニー知事は5月初めに東京の外国特派員協会で会見し、「台湾有事は日本有事と言うような内容の国会議員の発言など、沖縄が武力衝突に巻き込まれることを前提とした議論が行われていることを強く懸念している」と語った。

米国の統治が終わったときに17歳だった琉球大学の我部政明名誉教授は、沖縄がこの先どうなるのか、不安を感じたことを覚えている。それから50年、今も不安を感じているという。「日本と中国の間で戦争や紛争が起こった場合、沖縄は最前線になる」と話す。

<戦略的な重要性>

サンゴ礁に囲まれ、サトウキビ畑が広がる宮古島は2つの大型空港を有し、軍事的に重要な拠点と考えられている。台湾から400キロ、中国本土の沿岸部から約600キロ。日本が実効支配し、中国も領有権を主張する尖閣諸島(中国名:釣魚島)からは200キロしか離れていない。

仲里さんの農場の真横にある駐屯地はかつてゴルフ場だった。中国が海洋進出を強める中で日本政府は南西諸島に次々と基地を建設し、宮古島にも陸自のミサイル部隊を置いた。中国本土に最も近いミサイル拠点であり、沖縄本島と宮古島の間を抜けて西太平洋へ出ようとする中国海軍の艦艇に対するけん制にもなる。

「軍事要塞のようになっていくのが心配だ。小さな島なので、基地があると守られるのではなく戦争を呼び寄せる」と、基地反対を訴える清水早子さん(73)は言う。1995年に島へ移住した元塾講師の清水さんは仲里さんの畑にのぼりを立て、毎週1回、基地の前で抗議を続けている。「声を実際に上げてアクションを起こす人は目に見えては多くない。しかし、これを喜ばない人たちはたくさんいる」と清水さんは語る。

今年3月に赴任した駐屯地司令の伊與田雅一・1等陸佐は、任務を果たすには地元の理解が欠かせないと考えている。島の行事に参加したり、支援をすることで、「交流を図って理解を得る努力を続けていく」と話す。

駐屯地にはおよそ700人の隊員が駐在し、地対艦ミサイル部隊などを配備している。伊與田1佐は「1200キロに及ぶ南西諸島全体の各種事態に迅速に対応する」とし、「現在の体制はまだまだ十分とは言えない」と語る。

<軍事拠点増強、次の計画>

日本政府は年内に国家安全保障戦略を改定する。防衛費の増額を求める声が高まっていることから、宮古島の体制も強化される可能性がある。

与党・自民党は戦略見直しの一環として、敵の作戦拠点や司令部を叩く長距離弾の導入を要求しているが、琉球大学の我部名誉教授は宮古島に攻撃的な兵器を配備することはないとみる。600キロしか離れていない中国を刺激する恐れがあるためだ。

防衛省の元高官は、宮古島を増強するなら橋でつながった下地島空港の軍用化になる可能性があると指摘する。民間航空会社の操縦士を訓練するために建設された3000メートル級の滑走路を持つ空港で、週末は東京などと結ぶ便が就航している。

沖縄が日本に復帰する前年の1971年、日本政府は建設中の下地島空港について、民間航空の利用に限るとした文書を琉球政府の屋良朝苗主席(後の県知事)と交わした。「屋良覚書」と呼ばれるもので、沖縄の基地反対の象徴となってきたが、自民党国防議員連盟は2020年、自衛隊による空港使用を提言した。

議員連盟の事務局長だった佐藤正久参議院議員は、「自衛隊のF15戦闘機が離発着できる滑走路を持っているのは、沖縄本島以外は南西諸島で下地島空港しかない」と話す。「ウクライナを見れば分かるように、自分が防衛努力をしないと他の国は支援してくれない」と、佐藤議員は言う。

<強まる保守化の流れ>

自衛隊が沖縄でさらに拠点を増やすには地元の支持が欠かせない。しかし、日本復帰後も米軍の拠点が集中し、基地への反発が強い中では難しい。試金石となるのは9月の沖縄県知事選。無所属の玉城知事は米軍基地の縮小を訴え、再選を目指す構えだが、県全体で保守化の流れは強まっている。

自民党・宮古島市議を8年務めた浜元雅浩さん(48)は「国政選挙を見る限りは(沖縄県で)保守系の当選が続いていることもあるので、(自民党の支持は)増えているのではないか」と話す。「沖縄県の中で米軍の配備に反対している人は多いが、それと自衛隊とは分けて考えるべきだと思う」と、島で酒や食料品の卸を経営する浜元さんは言う。

那覇市で建設業を営み、実家のサトウキビ畑の収穫を手伝いに宮古島へ帰省していた60代の男性は、米ドルが流通していたころのことを覚えている。「楽しかったような記憶がある」と振り返る男性は、基地が配備されると攻撃対象になりかねないと懸念する。

その一方、ぜい弱な沖縄経済のことを考えると自民党に票が集まるのは仕方ないと考えている。「自民党に投票するのか、玉城さんに投票するのか、まだ決めていない」と男性は語り、耕運機のエンジンをかけた。

(Tim Kelly 編集:久保信博、橋本浩)

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