ニュース速報

ワールド

情報BOX:米軍撤退後のアフガンとバイデン政権の新たな課題

2021年08月31日(火)16時50分

8月30日、米軍は30日、アフガニスタンから米国人の大半や数千人のアフガン人協力者などを待避させる作戦を終え、現地からの撤退を完了した。写真は撤退するため輸送機に載せられる米軍のCHー47チヌーク・ヘリコプター。カブールの空港で28日撮影。米中央軍提供(2021年 ロイター)

[ワシントン 30日 ロイター] - 米軍は30日、アフガニスタンから米国人の大半や数千人のアフガン人協力者などを退避させる作戦を終え、現地からの撤退を完了した。これでアフガンは2001年以降で初めて、米軍が一切存在しなくなる。

退避作戦の下で、過去2週間にカブール国際空港から11万4000人余りが国外に脱出した。ただ、米軍がアフガンに関与しなくなったことで、バイデン大統領と米政権には、幾つかの新たな問題が発生している。

◎残された米国人と身の危険があるアフガン人

今月14日に退避作戦が始まって以来、アフガンを離れた米国人は5500人強に上るが、ごく一部の米国人は現地に残る道を選んだ。多くは、家族と一緒にいられるからという理由だ。

バイデン政権は、アフガンの政権を掌握したイスラム主義組織タリバンが、米軍撤退後も米国人や他の人々がアフガンから安全に退去するのを認め続けると期待していると表明した。しかし、空港が機能しない場合、これらの人々がどうやって国外に出て行けるかが懸念される。

米軍の通訳や報道関係者、女性の権利団体関係者ら危うい立場にある何万人ものアフガン人も取り残されたままだ。彼らの運命がどうなるかはっきりしないものの、複数の西側当局者はタリバンから報復行為を受けるのではないかと心配している。

米国、英国などが29日に発表した共同声明によると、タリバンは全ての外国人と外国政府から渡航を認められているアフガン人の国外退去を許可すると約束しているという。

◎米軍撤退後のカブール国際空港

過去2週間、カブール国際空港の安全確保と業務運営は、米軍の6000人近い部隊が担っていた。

タリバンは、民間航空会社の運航を続けるためにカタールやトルコなどの政府に支援を求める交渉を進めている。これらの航空便は多くの人にとって、アフガンを退去する唯一の方法と言える。

トルコのチャブシオール外相は29日、カブール国際空港で民間路線が再開できるようにするには、修理が必要だとの見方を示した。

北大西洋条約機構(NATO)の一員としてアフガンに部隊を派遣しているトルコは過去6年間、同空港の警備を任されてきた。外国軍から管理が引き継がれた後も空港を開き続けることは、アフガンが世界とのつながりを維持するだけでなく、援助物資の供給や支援活動を途切れさせないという意味で重要になる。

◎米国とタリバンの将来的な関係

米政府はアフガンに外交官を残留させる計画はなく、将来的にどうするかはタリバンの行動次第で決めると説明している。

とはいえバイデン政権は、アフガンで人道的、経済的な危機が起こるのを確実に防げる手段を見つけ出さなければならない。

国連によると、過去4年で2回目の干ばつに見舞われているアフガンでは、全人口の半分以上に当たる1800万人余りに援助が必要で、5歳未満の子どもの2人に1人は栄養不良に苦しんでいる状態だ。

英国を含めた一部の政府は、どの国も「二者間の交渉」でタリバンをアフガン政府として承認するべきではないと訴えている。

◎ISの脅威

米国とタリバンにとって、過激派組織「イスラム国」(IS)」がもたらす脅威が、手を結んで対応できる分野の1つになってもおかしくない。

もっとも具体的にどういった協力、あるいは情報共有が可能かを巡ってはさまざまな疑問が残る。

アフガンで活動するIS系の「イスラム国ホラサン州(ISIS-K)」は2014年終盤に東部地域で初めて姿を現し、その後、極端な暴力を行使する組織としてあっという間に有名になった。

ISIS-Kは、米兵13人と多数のアフガン市民が犠牲になった26日の自爆攻撃に関与したと主張。米軍はそれ以来、少なくとも2回の無人機を使った報復を行っており、バイデン氏は今後も報復を続けると強調している。

タリバンとISIS-Kは、激しい敵対関係にある。米情報機関当局者は、アフガンで西側諸国の支援した政権が今月崩壊するに至った一連の混乱に乗じ、ISIS-Kが自らの勢力強化を図るとともに、タリバンから脱落した戦闘員らの取り込みに動いているとみている。

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中