ニュース速報

ワールド

アングル:アフリカでオンライン診療が急拡大、企業も大型投資

2020年09月12日(土)09時23分

 9月7日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が続く中、世界中で医療のあり方に大きな変化が生じており、アフリカでも医者の診察は対面ではなくオンラインによる遠隔の問診で行われるケースが増えている。写真は、ナイジェリアの首都アブジャで医者とビデオチャットをする、慈善団体調査員のロベス・メティボバさん。8月31日撮影(2020年 ロイター/Afolabi Sotunde)

[ラゴス(ナイジェリア) 7日 ロイター] - ナイジェリアの首都アブジャで慈善団体の調査員として働くロベス・メティボバさんは赤ちゃんが下痢を起こした時に、自宅近くの診療所に行くと2人とも新型コロナウイルスに感染するのではないかと不安になった。「診療所に行くことを考えると、とても怖かった」という。

この診療所はナイジェリアの医療ハイテク会社イーヘルス・アフリカが運営しており、来所しなくても済むようにメティボバさんに医者とのビデオチャット用のリンクを送った。

新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)が続く中、世界中で医療のあり方に大きな変化が生じており、医者の診察は対面ではなくオンラインによる遠隔の問診で行われるケースが増えている。

とりわけ、医療へのアクセスが難しい場合が多々あるアフリカはこうした変化が劇的で、オンラインによる診療や医薬品販売を手掛ける企業の成長が期待できる。診療所はビデオチャットによる診察で赤ちゃんの症状は軽いと診断し、脱水症状を防ぐ薬を処方した。

メティボバさんが利用したオンライン診療システムを開発したキュアコンパニオン(米テキサス州)のムクル・マジムダル最高経営責任者(CEO)によると、今年のアフリカでの事業は昨年の12倍に拡大。アルメニア、ホンジュラス、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、ナイジェリアの7カ国のオンライン診療は10倍に増えた。

診療記録のデジタル化を専門に手掛けるナイジェリア企業のヘリウム・ヘルスは事業を拡大し、2月にオンライン診療システムを立ち上げた。当初は今年もっと遅い時期の開始を予定していたが、新型コロナ流行に伴う需要増に対応し、立ち上げ時期を前倒しした。

ヘリウムは5月、中国のインターネットサービス大手、騰訊控股(テンセント)などの投資家から1000万ドル(約10億6000万円)を調達した。幹部によると、病院や診療所など数十カ所が契約を結んだという。

ラゴスのビクトリア島で診療所を運営するンゴジ・オニア氏によると、ヘリウム・ヘルスへの支払いは月15万ナイラ(394.22ドル)。オンライン診療の料金は1件当たり1万ナイラと対面方式の半分で、患者のほとんどがオンライン方式を選ぶという。

<民間資金も流入>

新型コロナ流行前から公共医療の専門家や投資家は以前から、人口が急増するアフリカの医療需要への対応に遠隔医療が役立つと考えていた。アフリカで医療サービスを提供するハイテク企業には、開発機関やベンチャーキャピタルからも資金が流れ込んでいる。

米サンフランシスコに拠点を置く投資会社パートテックのデータによると、ベンチャーキャピタルからアフリカの医療ハイテク企業への資本投資は昨年が1億8900万ドルと、17年と18年のそれぞれ2000万ドル前後から大幅に増加。新型コロナ流行による混乱にもかかわらず、今年上半期は約9700万ドルに達している。

ルワンダで2016年に業務を開始した米カリフォルニア州のドローン企業ジップラインは、昨年1億2000万ドルの出資を受けた。同社はルワンダに2カ所のドローン離着陸拠点を設置し、国内の95%の地域をカバーできると見ている。

ジップラインは2019年にはガーナにも進出。同国が今年5月にロックダウンを行った際には政府から協力要請を受け、ワクチンや防護服などを配送した。ガーナ政府はジップラインの業務拡大について同社と協議している。

アフリカで最も人口の多いナイジェリアもハイテク企業が役立つ余地が大きいとみられている。アブジャの当局は、新型コロナ検査の結果が陰性だった場合に自動でテキストメッセージを送るシステムの構築に向けて、イーヘルス・アフリカの慈善事業部門に相談を持ちかけた。

ナイジェリア疾病予防センター(NCDC)の責任者は、検査結果の自動処理により検査数を増やせるとの見方を示した。

<経済危機が影響>

新型コロナ流行はハイテク医療企業にとって追い風だが、アフリカの経済問題が一段と深まる要因にもなった。国際通貨基金(IMF)の推計によると、サハラ以南のアフリカ諸国の今年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス3.2%と予想されている。またアフリカ連合によると、新型コロナ流行によりアフリカ全体で約2000万人が職を失う恐れがあり、そうなれば国民の医療費負担能力は低下する。

そもそもアフリカ諸国は海外諸国に比べて医療支出が少ない。ブルッキングス研究所のデータによると、アフリカの人口は世界全体の16%だが、2015年の全世界の医療支出に占める比率は1%に過ぎなかった。国民1人当たりの医療支出で見ると、諸外国はアフリカの10倍に達する。

インターネットの接続環境の悪さや不安定な電力供給も、医療ハイテク技術導入の障害になるだろう。

メティボバさんはインターネットの接続性が悪い問題に対処するため、2つの回線を使い分けている。費用はかかるが、遠隔診療のために今後もこの方法を続けるつもりだという。

(Alexis Akwagyiram記者)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「台湾情勢懸念せず」、中国主席との関係ア

ワールド

ロ、ウクライナで戦略的主導権 西側は認識すべき=ラ

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタル基盤投資会社を買収 AI

ワールド

トランプ氏、パウエルFRB議長提訴を警告 後任は来
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中