ニュース速報

ワールド

特別リポート:日本の法律が迫る家族分断 仮放免者らに重い選択

2016年11月22日(火)22時10分

 11月22日──9月半ば、朝の成田国際空港。16歳の少年ウティナン・ウォン(左)はタイに帰国する母を固く抱き締めた後、出発ゲートに消えていく後姿をじっと見送った。9月撮影(2016年 ロイター/Thomas Wilson)

[東京 22日 ロイター] - 9月半ば、朝の成田国際空港。16歳の少年ウティナン・ウォンはタイに帰国する母を固く抱き締めた後、出発ゲートに消えていく後姿をじっと見送っていた。

6月30日、東京地裁はウティナンと母ロンサン・パーパクディの退去強制処分撤回を求める訴えを退けた。判決では、状況が変化した場合、子どもの在留特別許可について再検討される余地がある、となっていた。しかし、その前提となるのは母親の本国への退去だった。

母ロンサンは20年以上日本で暮らしていた。彼女にとって、この判決が自らに突き付けた重い選択は明らかだった。自分さえタイに帰れば、息子が日本に定住できる道が開ける。

「本当は帰るっていうのは考えられなくて。でも裁判で負けてしまった」。バンコク行きの便に搭乗する数時間前、空港でロンサンは語った。「こんなことになるとは思っていなかった」。

ウティナンのケースは、在留許可なく日本で暮らす外国人家族の一部に対し、日本の政府もしくは裁判所が提示する家族分離という苦渋の選択肢の一例だ。彼らの多くは1990年代にペルーやボリビアなどの国から、より良い生活を求めて観光ビザで来日し、そのまま滞在した両親と、日本で生まれた彼らの子どもたちだ。

母が去った今、日本で生まれ育ったウティナンには、事実上の祖国となる日本に家族はいなくなった。母と子が別れて生活するのはこれが初めてだ。

「お母さんは僕が日本にいられるために、帰るつもりだ」。母の出発前、ウティナンは空港でこう語った。そして、「さみしい」とつぶやいた。

6月30日の判決は「なお書き」として「原告子(ウティナン)は、定時制高校に進学するなど、本邦の社会への順応の度合いを高めつつある」としたうえで、母の送還後に養育に責任を持つ者がいれば、ウティナンへの在留特別許可が再検討される可能性がある、と付記した。

しかし、親子離れ離れの暮らしは容易に受け入れがたい。ロイターの取材に応じた5つの家族は、入管職員から口頭で伝えられた「両親が帰国すれば子どもが日本の在留許可を得られる」という提案を拒否した、と答えた。彼らは家族の分離という選択肢を拒み、家族そろって日本に定住できる方法を模索している。

フィリピン人のある家族は日本に20年近く暮らしている。入管からは昨年、「両親が帰国すれば子どもが日本に定住できる可能性がある」との提案が持ち出された。日本生まれの息子は中学3年生。母は泣きながらこう訴える。「私と夫以外、息子の面倒をみられる人はいない」。

法務省入国管理局は、個別のケースにはコメントしないとしたうえで、こうした提案を入管から差し向けることはなく、家族からそのような要望があった場合に検討する、としている。

ウティナンは今、支援者である日本人の男性と暮らしている。ウティナンは退去強制処分の撤回要請を退けた地裁判決を不服とし、7月に東京高裁に控訴している。新たな判決は12月に下される。

(舩越みなみ、Thomas Wilson 翻訳:宮崎亜巳 編集:北松克朗)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エルサレム郊外のバス停銃撃事件、ハマス軍事部門が犯

ワールド

ロシアがシリアに大規模代表団、新政府と関係構築 ノ

ワールド

イスラエルがハマス幹部狙い攻撃、ガザ交渉団高官ら 

ワールド

バイル仏首相が正式辞任、内閣信任投票否決受け=政府
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    エコー写真を見て「医師は困惑していた」...中絶を拒否した母親、医師の予想を超えた出産を語る
  • 3
    富裕層のトランプ離れが加速──関税政策で支持率が最低に
  • 4
    もはやアメリカは「内戦」状態...トランプ政権とデモ…
  • 5
    ドイツAfD候補者6人が急死...州選挙直前の相次ぐ死に…
  • 6
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にす…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    石破首相が退陣表明、後継の「ダークホース」は超意…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 9
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 10
    エコー写真を見て「医師は困惑していた」...中絶を拒…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中