ニュース速報

ワールド

焦点:英EU離脱で財政健全化「リセット」、政府借入れ増大へ

2016年07月28日(木)11時16分

 7月26日、英国の景気はEU離脱派が勝利した国民投票のショックで悪化が見込まれるため、政府は景気対策と税収不足穴埋めのために資金手当てが必要になる。写真はハモンド新財務相。ロンドンで14日代表撮影(2016年 ロイター/Carl Court/Pool)

[ロンドン 26日 ロイター] - 英国の景気は欧州連合(EU)離脱派が勝利した国民投票のショックで悪化が見込まれるため、政府は景気対策と税収不足穴埋めのために資金手当てが必要になる。ハモンド新財務相は前任のオズボーン氏が進めてきた財政緊縮策を「リセット」し、2010年以来初めて大幅に政府借り入れを増やすとみられる。

ハモンド財務相は既に政策変更の必要性を表明しており、エコノミストは借入額がどの程度増加するか、そろばんを弾き始めた。財務相は24日記者団に対し、景気対策を打つ場合の規模について、通常11月か12月初めに行われる秋季予算演説までにどの程度景気が減速するか次第で決まる、と話した。

英国の2015/16年度の公的借入額は750億ポンドと、国内総生産(GDP)の4%に上った。英予算責任局(OBR)が3月に示した見通しでは、本年度はこれを555億ポンド、17/18年度は388億ポンドに抑えるはずだった。

英財政研究所(IFS)のディレクター、ポール・ジョンソン氏は、税収の落ち込みと社会保障費の増加だけでも借入額は計画から数百億ポンド上振れると見る。

複数のエコノミストの予想を平均すると、景気後退を免れたとしても本年度と来年度の借入額は合計で計画を650億ポンド上回る見通しだ。

ハモンド財務相は、まずはイングランド銀行(英中央銀行)が景気刺激策を講じるべきだと述べているが、国債利回りと政策金利は既に過去最低まで下がっており、金融緩和による効果は限定的だろう。

<景気対策の選択肢>

財政政策を講じる場合、財務相は資金の使い方を選択する必要がある。

OBRによると、成長押し上げに最も効率が良いのは長期間の公共投資で、1ポンド当たりの効果は減税に比べて3倍、一般的な公共支出に比べて5割増しとなる。難点は、すぐに効果を発揮する減税や公務員の給与引き上げに比べてプロジェクトに時間を要することだ。

しかしIFSのジョンソン氏やロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)のエコノミスト、サム・ヒル氏は、EU離脱交渉が何年にもわたって不透明感をもたらし、景気を圧迫しそうなことから、公共投資の方が妥当だと見ている。

差し迫った景気浮揚が必要な場合には、2009年に実施したような付加価値税の一時的な引き下げよりも、企業投資をめぐる税制優遇の方が選択肢としては良いだろう。現在は消費者心理よりも企業の設備投資の方が大きな打撃を被っているからだ。

<財政ルールの見直し>

どこまで政府借り入れを増やせば行き過ぎになるのか、ハモンド氏と財務省が具体的な数字を念頭に置いている様子はない。同氏は先週議会で、妥当な時間軸で「財政均衡」を達成するための明確な枠組みが必要だ、と述べた。

財務相は今月、国債利回りが下がっているため投資に向ける資金調達には「大いに魅力がある」と述べたが、金融市場に与えるシグナルには注意を払っていく必要があるとも釘を刺した。

オズボーン前財務相が2010年に考案した財政ルールに立ち戻る手もある。これは5年以内の財政収支の黒字化を目指すものだが、投資のための支出は勘案されない上、景気が弱い場合には期限を先送りすることも可能だ。

RBCのヒル氏によると、この除外規定を利用すれば年400億ポンドの支出余地が生まれ、年2%の成長押し上げ効果をもたらせる。しかもハモンド財務相は、前任者同様に財政タカ派として振舞うことが可能だ。

ただIFSのジョンソン氏は、政府借り入れの拡大はEU離脱の影響が明らかになるまでの一時的措置になる、と指摘。「現在借り入れを増やしても、最終的には返す必要がある。つまり、緊縮措置は継続せざるを得ないが、休憩を挟むということだ」と述べた。

(David Milliken記者)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中