アングル:日銀利上げ、織り込み進めば株価影響は限定的 「サプライズ」に警戒
日銀本店前で1月撮影。 REUTERS/Issei Kato
Noriyuki Hirata
[東京 28日 ロイター] - 日銀の利上げ観測がくすぶる中、株高基調が継続している。市場では、早期利上げがあっても織り込みが進んでいれば株価下押し圧力は限定的との見方があるほか、利上げ先送りで円安が進行するならむしろマイナスとの声も聞かれる。一方、日銀による「地ならし」は進んでおらず、サプライズ的な利上げとなった場合の株価インパクトへの警戒感も根強い。週明けの植田和男総裁の講演をはじめ、日銀からの発信に関心が寄せられている。
<1回の利上げは織り込み済み>
政府による経済対策が示され、円安が急速に進む中、日銀による早期の追加利上げの思惑が高まっている。東短リサーチ/東短ICAPによるオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)に基く試算では、12月会合での政策変更の織り込み比率は28日時点で57%、1月までなら85%となる。
こうした中、12月会合での利上げの「地ならし」が見込まれていた27日の野口旭審議委員による講演は、利上げ観測を一段と高める内容とはならなかった。日銀からのメッセージが明確でない中、「いま市場が利上げを織り込んでいるのなら、このまま織り込ませて利上げしてしまえばいいのではないか」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大西耕平上席投資戦略研究員は話す。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンド・マネージャーも「12月か1月の1回の利上げは織り込んでいる」と指摘、「(名目金利からインフレ率を差し引く)実質金利がマイナスにある中で1─2回利上げしたところで、緩和政策の調整の範囲内に過ぎず、景気や株価にネガティブインパクトはないだろう」とみる。
実際、日銀の12月会合での利上げ織り込みは18日の3割弱から27日までに6割程度へと高まる中でも、日経平均は3.0%上昇し、TOPIXは3.6%上昇した。
この期間の33業種別の値動きを見ると、より顕著に株価反応の変化がうかがえる。利上げがポジティブ材料となる銀行が6.1%高で上昇率6位だったのに対し、本来、利上げはネガティブになる不動産が8.5%高で上昇率1位だった。「(不動産にとって)金利上昇がネガティブとの見方でなく、インフレ環境下で有用な資産との見方になってきている」(三菱UFJモルスタの大西氏)との見方がある。
<利上げ先送りは日本経済にマイナス>
むしろ利上げを見送って円安が進むようなら、輸出企業を中心に企業業績的にはプラスでも、日本経済にとってのマイナスも意識されかねない。
過度な円安は輸入物価の上昇を通じてインフレにつながり、個人消費にマイナスに作用し得る。インフレの強まりが実質賃金に下押し圧力をかける経路からも消費にマイナスとなる。「インフレを抑えて実質賃金をプラスに押し上げるには、利上げを通じ、円安もある程度は抑えなければならない」(しんきんAMの藤原氏)という。
利上げ見送りによる急速な円安は「政府による為替介入への懸念を高めやすく、株価は素直に好感しにくい」とアセットマネジメントOneの浅岡均チーフストラテジストはみている。
財政懸念が高まるもとで債券安(金利は上昇)となる中、円安、株安が重なる「トリプル安」の現象が一時的に生じたことが話題になったが、株式市場では「株価は米ハイテク株の上下に振らされているにすぎない」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成社長)との見方が優勢だ。
足元の3市場の動きは「ビハインド・ザ・カーブ」の懸念を織り込んでいる可能性があると、三菱UFJモルスタの大西氏はみている。政府が大規模な経済対策を打ち出す中、日銀に協調性を求めていることから「金融政策が後手に回り、円安やインフレが進むことへの警戒感が市場にあるのではないか」との見方だ。
足元で米国では、12月利下げの織り込みが急速に進んでおり、株価も高値圏での推移を継続している。日銀が利上げに動く場合、日本株は短期的に下押すリスクはあっても「米株が崩れない限り、日本株は大崩れしない」(いちよしAMの秋野氏)とみられている。
<「サプライズ感」の有無がポイント>
ポイントになるのは「サプライズ感」の有無だと三菱UFJモルスタの大西氏は話す。昨年7月の利上げ後の相場反応も、利上げ自体ではなくサプライズ感が市場の動揺につながったとみている。
日銀の12月会合は18―19日。1日には植田和男総裁の発言機会が控えており「利上げに向けてどれぐらい織り込ませてくるかが焦点になる」とアセマネOneの浅岡氏は話している。





