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アングル:米アマゾン、オープンAIとの新規契約でクラウド事業の最前線に

2025年11月05日(水)16時39分

写真はオープンAIとAWSのロゴと、ロボットハンドのイメージ。11月3日撮影。REUTERS/Dado Ruvic

Harshita Mary Varghese Kritika Lamba

[4日 ロイター] - 米電子商取引(EC)大手アマゾン・ドット・コムは3日、対話型生成人工知能(AI)「チャットGPT」を手掛けるオープンAIとの380億ドル規模の契約を結び、クラウドサービス「AMS(アマゾン・ウェブ・サービス)」を提供すると発表した。これは競合企業に市場シェアを奪われ、大規模障害にも見舞われたアマゾンのクラウド事業にとって、追い風となりそうだ。

アマゾンは利益率の高い「AMS」でクラウドコンピューティング業界を長年リードしていたものの、ここ数年はAIサービスでマイクロソフトやグーグルの親会社アルファベットに大型契約を奪われていた。

シナジー・リサーチ・グループのデータによると、アマゾンのクラウド部門における市場シェアは2022年、チャットGPTが登場する数カ月前の時点では34%だったが、25年9月には29%に低下している。

投資家の間では、アマゾンは大規模言語モデル(LLM)の導入が遅れ、チャットGPTのような消費者向けチャットボットを提供できていないなど、AI競争で後れを取っているとの見方が多かった。

ただ最近では、アマゾンの対AI分野投資も加速しつつある。10月には110億ドルを投じた計算クラスタープロジェクト「レーニア」の立ち上げを発表。自社開発の半導体「トレーニウム」を組み込んだ米国内のデータセンターで、新興企業アンソロピックのAIトレーニングを行うというものだ。

今回のオープンAIとの契約は、先週発表された好調な四半期決算とともに、AWSが勢いを回復しつつある状況を示している、とアナリストや投資家は指摘した。

クイルター・チェビオットのアナリスト、マンタ・バレチャ氏は「今回の契約は、オープンAIが他のクラウド事業者とこれまでに契約した案件に比べれば小規模だ。ただ、計算処理能力の開発に今後数年間で数兆ドル規模を投資する企業と提携を組もうとするアマゾンの試みとしては、重要な第一歩となる」と述べた。

アマゾンの株価は今回の契約発表後に5%上昇し、史上最高値を記録。それ以前は、新興AI企業との数千億ドル規模のクラウド契約を手掛かりに急騰した他のテック大手株からは遅れを取る形となっていた。

マイクロソフトは先週、オープンAIとの組織再編を巡る新たな合意に基づき、クラウドサービス「Azure(アジュール)」について2500億ドル規模の契約を締結したと発表した。オラクルも9月、オープンAIと総額3000億ドルの契約を締結。グーグルはアンソロピックとの数百億ドル規模の半導体関連契約など、複数企業との事業提携を進めている。

<AI投資拡大が成長けん引>

アマゾンのAI戦略は、幹部の離脱によって停滞した側面もある。ロイターは6月、生成AI開発の責任者が他社に移籍したと報じていた。

競争力を維持し、高コストのデータセンターへの資金を確保すべく、アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は管理職の削減や非効率的な要素を特定するための匿名内部通報制度の導入といった取り組みを進めている。

先週には本社部門の従業員のうち、過去最大規模となる約1万4000人の削減を発表。他方、AI投資は拡大しており、今年の設備投資は約1250億ドルに達したほか、来年はさらなる増加が見込まれている。この金額はアルファベットの最大930億ドルという投資計画を上回り、マイクロソフトの今年の投資額見通しとほぼ同等だ。

BMOキャピタル・マーケッツのアナリスト、ブライアン・ピッツ氏は、アマゾンとオープンAIの契約により、AWSの第4・四半期時点の受注残は9月末時点の2000億ドルから約20%増加する可能性があると予測している。

オープンAIの株式を保有するスロ・キャピタルの投資家ウィリアム・リー氏は「アマゾンは明らかに以前と異なり、ようやくLLM開発を巡る時代の流れに乗ってきたようだ」との見方を示した。

ロイター
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