ニュース速報
ビジネス

アングル:難しさ増すFRBの政策判断、政府閉鎖による重要統計発表中止で

2025年10月22日(水)07時20分

 10月20日、米連邦準備理事会(FRB)は、政府機関の一部閉鎖に起因する重要統計の発表中止に伴って、視界不良のまま28-29日の連邦公開市場委員会(FOMC)を迎えようとしている。米首都ワシントンで2022年6月撮影(2025年 ロイター/Sarah Silbiger)

Howard Schneider

[ワシントン 20日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は、政府機関の一部閉鎖に起因する重要統計の発表中止に伴って、視界不良のまま28-29日の連邦公開市場委員会(FOMC)を迎えようとしている。さまざまなリスクのうちどれを最も重視するのか政策担当者の意見が割れている中で、この状況はいつにも増して望ましくない。

1日に政府機関閉鎖が始まって以来、労働省統計局は9月の雇用統計を発表していないが、入手可能な情報に基づくと、なお低調な雇用の伸びが続いているもようだ。FRBによる独自のフィールド調査は消費がほころぶ可能性を示唆し、最近の企業景況感は落ち込んでいる。

だが物価上昇率がFRBの目指す2%を上回っている足元の局面で、複数の企業は値上げを警告。企業の投資行動がよりはっきりしてくるとともに、米経済成長率の見通しを上方修正する動きが広がっている。何人かのエコノミストは、飲食店チップや残業代への課税免除などを盛り込んだトランプ政権の減税法を通じて家計への還付金が増加することが、来年の経済にプラス効果をもたらすと言及し始めた。

<視界不良での飛行>

金融市場は、28-29日のFOMCで政策金利が25ベーシスポイント(bp)引き下げられて3.75-4.00%に決まると予想している。

しかし野村の先進国市場チーフエコノミスト、デービッド・セイフ氏は、当局者やエコノミストは「目が見えない状態で飛行を続けている」と表現し、労働市場が本当はどうなっているのか、労働省の月次雇用統計を確認するまで把握できないと指摘した。

実際、FRBは9月初めに公表された8月雇用統計以降、労働市場の全体像をつかめるデータを持ち合わせていない。一方6─8月の非農業部門雇用者数の増加幅は月間平均2万9000人と、コロナ禍前の平均より低く、パウエル議長を含めたFRB高官はこのところ、労働市場に焦点を当てた発言が目立つ。

雇用統計と並んで重要な消費者物価指数(CPI)に関しては、労働省労働統計局が24日に9月分を公表する見通し。社会保障制度の給付金の基準となる生活費調整算定に不可欠なため、トランプ政権が一部職員の呼び戻しを命じたためだ。

ロイターがまとめたエコノミスト調査では、前年比上昇率が3.1%と8月から加速し、FOMCメンバーの一部には追加利下げに対する不安がくすぶり続ける公算が大きい。

FRBが物価目標に採用している個人消費支出(PCE)物価指数も8月の前年比上昇率が2.7%と、直近で最低だった4月の2.3%から上振れ、FRBは年内に3.0%まで高まると想定。家計や企業の期待インフレ悪化が懸念されている。

こうした中で今年FOMCの投票権を持つカンザスシティー地区連銀のシュミッド総裁は、物価押し下げ圧力を十分保持する上で現在の政策金利水準が適切だとの見解を示している。

政府統計を欠く以上、この物価押し下げ圧力をどの程度にすることが妥当なのかを巡る議論がより大事になってくるだろう。

<強弱要因が混在>

FRB高官の景気・物価認識には大きな差が生じており、シュミッド氏はインフレを懸念する半面、ミラン理事は政策金利が高過ぎるし、物価上昇率は間もなく鈍化すると主張している。ただしそうした見通しを裏付けるのも、軌道修正を迫るのも、新たな政府統計の内容次第だ。

そして政府機関閉鎖が終わらない限り、通常なら月内に公表される最新の個人消費データや国内総生産(GDP)速報値も入手できない。

ウォラー理事は先週、民間データで採用活動はなお軟調なことがうかがえるものの、経済成長が加速する可能性もあると述べ、今はとりわけ判断が難しい局面だと強調した。

企業の設備投資を見ても全体では増加しているが、活発なのは人工知能(AI)関連のみ。株式は値上がりし、企業の資金調達コストは相対的に低いとはいえ、住宅ローン金利は高止まりしている。富裕層は消費を続けているのに対して、他の階層は物価高に対処するため買い物を節約するなど、強弱要因が混在するのが現状だ。

ウォラー氏はブルームバーグテレビで、さまざまな面で今は分岐点にあるので経済動向を読み取るのは困難になっていると説明。来週のFOMCで25bpの利下げをすることを含めて慎重な緩和姿勢を提唱しつつ、追加利下げについては物価情勢や雇用の伸びがさらに弱くなるかどうかに左右されるとの考えを示した。

ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は先週、今のところ金融政策は道を切り開いていけるが、政府閉鎖が長引くほど、経済動向を適切に読み解く自信がなくなっていくと警告した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国大豆、中国向け新規販売契約なし 農家経営破綻の

ビジネス

バービー人形のマテル、第3四半期売上高・利益が市場

ビジネス

カナダCPI、9月は前年比+2.4%に加速 ガソリ

ワールド

トランプ米大統領、政府再開されるまで民主党との会合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 10
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中