ニュース速報
ビジネス

再送-インタビュー:サナエノミクス、日銀利上げ「遠のく可能性」=京大院 藤井教授

2025年10月09日(木)21時55分

 10月9日、 京都大学大学院の藤井聡教授はロイターとのインタビューで、自民党の高市早苗総裁(写真)の経済政策「サナエノミクス」に関連して、高市氏は「緩和的な金融政策が望ましいと考えているはずだ」として、日銀の利上げが遠のく可能性を指摘した。都内で4日代表撮影(2025年 ロイター)

(「ジャパン・ファースト」は共同で執筆、出版予定であることを明記し、再送します)

Yusuke Ogawa

[東京 9日 ロイター] - 京都大学大学院の藤井聡教授はロイターとのインタビューで、自民党の高市早苗総裁の経済政策「サナエノミクス」に関連して、高市氏は「緩和的な金融政策が望ましいと考えているはずだ」として、日銀の利上げが遠のく可能性を指摘した。

財政政策に関しては健全化の目標を提起しており、麻生太郎副総裁との間で意見が対立することはない、との認識を示した。

藤井氏は2012年から18年まで安倍晋三内閣で内閣官房参与を務めた。高市氏とは親交があり、同氏との共著「ジャパン・ファースト」も出版予定。

―自民党総裁選で高市早苗氏が勝利した要因は。

社会の貧困化や移民をはじめとした外国人問題などを背景に、自民党員がいま強く望んでいたのは「積極財政」と「保守政策」だった。5人の候補者の中で、こうした政策を最も主張していたのは高市氏である。一方、小泉進次郎氏は緊縮財政論者であり、リベラリズム的な政策を主張した。決選投票で大差がついたのは、両者の違いが明確だったからだ。

昨年の総裁選では、党員票を裏切る形(注:1回目投票では高市氏が党員票で首位)で石破茂氏が勝利した。今年も裏切れば一度ならず二度までもということになる。しかも、今回は「フルスペック方式」を選んだ以上、党員の声をしっかりと聞くという前提があった。このような経緯から、麻生太郎氏の「党員票が多い候補に」という終盤の指示が大きな意味を持ったと考えている。

―藤井氏は以前から高市氏と親交を持つが、同氏の印象は。

非常にきめ細やかで繊細な人物だ。献本したり論文を送ったりすると、必ず手書きで丁寧なお礼状をいただく。人付き合いが悪いなどと言われることもあるが、決してそうではない。極めて勉強熱心な方でもある。その結果として、政策の理論体系を深く理解している。また、保守的な政治信条を持っていることから、(同じく保守派の政治家である)トランプ米大統領との相性の良さも期待できるのではないか。

―高市氏の経済政策「サナエノミクス」の特徴とは。

基本的な構造は「アベノミクス」と同じだ。(金融緩和と財政出動によって)デフレギャップを埋めて高圧経済の状況を作り、経済成長を実現することを目指している。アベノミクスとの違いを挙げるとすると、エネルギーや食料の安全保障、国土強靭化など、具体的にどこに投資すべきかを明確にしている点である。「ワイズ・スペンディング(賢い支出)」に非常にこだわっているのが特徴と言えるだろう。

彼女は財政規律を無視するとは一度も言っておらず、健全化の目標として「純債務残高の対国内総生産(GDP)での安定化」を提起している。これは世界標準の考え方であり、赤字国債を忌避することの方がむしろ海外では稀有である。(財政規律を重視するとされる)麻生氏との間で意見が対立することもないと認識している。

―日銀の金融政策への影響をどうみるか。

当然ながら金融政策は日銀が総合的に判断するものだが、その重要な要素は政府の経済政策の方針となる。高市氏の経済政策は内需を高めることで実質GDPを拡大させる内容なので、彼女は緩和的な金融政策が望ましいと考えているはずだ。日銀もそうした政府方針を考慮して最終的に判断するのではないか。(総裁選前は10月会合での利上げが濃厚とも言われていたが)利上げが遠のく可能性があると考えている。

―インフレ局面で金融緩和や積極財政策をとることにリスクはないか。

足元のインフレはコストプッシュ型の側面が強く、食料品やガソリンが高くなっている。値段を引き下げるためには、ガソリン税の減税などの財政政策が必要になる。日本経済が正常な状態に戻れば、コストプッシュからデマンドプル型に移行するので、その段階でインフレ率を適切な水準に導けばよい。

(政策案として挙がっている)現金給付を組み合わせた所得減税についても、実質GDPが伸び悩む中で、しっかりと内需を刺激する狙いがある。インフレ局面と積極財政策は相性が悪いと考える人がいるかもしれないが、現下の様なコストプッシュ型の場合には必ずしもそのようなことはない。

(聞き手・小川悠介 編集:橋本浩)

*インタビューは8日に行いました。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メローニ伊首相、ゼレンスキー氏と電話会談 緊急支援

ビジネス

街角景気11月は7カ月ぶりに悪化、物価高に懸念 ク

ワールド

中国レアアース輸出、11月は急増 米中首脳会談受け

ビジネス

中国銅輸入量、11月は2カ月連続減 価格高騰で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中