アングル:「高市トレード」に巻き戻しリスク、政策みえず円売りに懐疑的見方も

9月17日、 為替市場では、高市早苗前経済安保担当相の自民党総裁選出馬を想定した条件反射的な円売りの「高市トレード」が広がりを見せてきたが、ここにきてその動きに変調もみられる。写真は2024年9月、都内で行われた討論会に出席する高市氏。代表撮影(2025年 ロイター)
Atsuko Aoyama
[東京 17日 ロイター] - 為替市場では、高市早苗前経済安保担当相の自民党総裁選出馬を想定した条件反射的な円売りの「高市トレード」が広がりを見せてきたが、ここにきてその動きに変調もみられる。ドル自体の軟調に加え、同氏が出馬しても、打ち出す政策が市場の思惑通りとはならないリスクもくすぶっており、早くもトレード巻き戻しの兆候をかぎ取る声もある。
<小泉氏への見立て>
高市氏といえば昨年の総裁選時、安倍晋三元首相の「アベノミクス」になぞらえた「サナエノミクス」を掲げ、経済成長・金融緩和など財政拡張的な主張で知られてきた。市場では「海外勢などによるシステムトレードの反応か、メディアで同氏の名前が出るだけで10銭単位でドル/円が跳ね上がる」(国内銀行の為替セールス担当者)と意識されている。
ところが、そんな「機械的な円売り」(みずほ証券チーフ為替ストラテジストの山本雅文氏)が反転する場面があった。自民党の小泉進次郎農水相が総裁選に出馬する意向を地元に伝達したと伝わった16日、ドルが147円半ばから146円後半へと下落する動きが続いた。
日米の金融政策決定会合を控える中での持ち高調整だけでなく、小泉氏が高市氏の有力な対抗馬になるとの見方から「一部で高市トレードが巻き戻された」(国内銀行の為替セールス担当者)との指摘が聞かれた。小泉氏が当選する場合、その政策は市場が高市氏に期待するほど緩和的ではないとの見立てが背景にある。
とりわけ、小泉陣営の選対本部長に加藤勝信財務相が就任する見通しと伝わったことが、過度な円安を修正する動きにつながったとみられる。「保守派で一定の存在感のある加藤氏が陣営に加わり、財政拡張には向かわないという思惑が強まった可能性がある」(ニッセイ基礎研究所主席エコノミストの上野剛志氏)という。
<オプション市場の警戒>
通貨オプション市場でも、高市トレードを修正するような動きが観測されている。ドルの対円取引で「コール(買う権利)」から「プット(売る権利)」の需要を差し引いたリスク・リバーサル(RR)では、弱まっていたドル安/円高への警戒が一転、強まったことが示されている。
自民党総裁選までを含む1カ月物25デルタのRRはきょう17日までの時点でマイナス0.9%と、15日までのマイナス0.7%近辺からマイナス幅を拡大した。通貨オプションは先行きの変動に備えることなどを目的に行われる取引で、マイナス幅が拡大するほどドル・コールへの需要対比で、プットへの需要が増加していることを示している。
9月に入ってから縮小傾向だったRRのマイナス幅が再び拡大に転じ始めたとして「財政規律が維持されるとの見方が円高材料の一つになった可能性がある」と、あおぞら銀行チーフ・マーケット・ストラテジストの諸我晃氏は話す。
<高市トレード逆回転に警戒感>
為替市場の「高市リスク」に対する条件反射的な円売り反応が広がった要因のひとつには、今回の総裁選に向けた同氏からの政策発信が限られていたこともありそうだ。これまでの円安反応は、思惑主導とみる市場関係者は少なくない。
みずほ証券の山本氏は、債券市場の「高市リスク」への反応が限定的なのに対し、ドル/円市場の反応が敏感な点に着目する。為替市場は財政悪化懸念より為替政策面で今後、円安志向を示すリスクが否定されていない点を重視しているためという。
週内にも見込まれる出馬表明の場で、消費税や給付金に対する姿勢だけが示され、日銀の金融政策や為替政策に関して特段の言及がない場合、「円高圧力となる余地もある」と山本氏は指摘、145円までのドル下落もあり得ると話している。
(青山敦子 編集:平田紀之、石田仁志)