マクロスコープ:日本企業の会計不正、4年で倍増 「リモート監査」も一因か

8月8日、粉飾に手を染める企業が後を絶たない。物言う株主の台頭などを背景に収益改善への強いプレッシャーが経営陣にかかっていることに加え、不正を見抜くべき立場にある監査法人側の事情も見過ごせない。写真は2019年1月、都内で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Yusuke Ogawa
[東京 8日 ロイター] - 粉飾に手を染める企業が後を絶たない。物言う株主の台頭などを背景に収益改善への強いプレッシャーが経営陣にかかっていることに加え、不正を見抜くべき立場にある監査法人側の事情も見過ごせない。慢性的な人手不足や、新型コロナウイルス禍を機に定着したリモート(遠隔)による監査が不正増加の一因になっているとの見方がある。
日本公認会計士協会(JICPA)が7月にまとめた報告書によると、2024年度に不正を公表した上場企業は56社に上り、4年前の約2倍に達した。25年度に入っても、人工知能(AI)関連の新興企業オルツによる売上高の過大計上が明らかになっている。
会計不正を公表した上場企業は20年度以降、4年連続で増加した。不正は、経営者や従業員が会社の資産を私的に使う「資産の流用」と、財務諸表に意図的な虚偽表示をする「粉飾決算」に分類。粉飾の手口では「架空仕入れ・原価操作」と「売上の過大計上」が多かった。
過去5年(計177社・184件)の発覚経路としては、国税庁などの「当局の調査」が47件と最多で、「内部統制」や「内部通報」が後に続く。社内ガバナンスが一定の役割を果たす反面、不正は主に外部調査によって明るみに出ている。
24年度の具体例としては、トヨタ自動車系部品会社ファインシンターの粉飾が挙げられる。売上原価にかかる固定費を減らすために、インドネシア子会社が在庫を約3億円過大に計上していた。同子会社は設立以来赤字が続いており、親会社から「黒字化必達」、「何が何でも黒字を達成」といった強い言葉で業績改善を求められたことが不正の動機となった。
特別調査委員会の報告書では、不正を助長した要因として、新型コロナ禍による在庫確認の変化も指摘されている。従来は現地会計事務所の担当者が実地棚卸に同席していたが、感染拡大を受けて20年に立ち会いを中止。コロナが収まった後も、子会社の社員のみで実施していたという。
<相次ぐ若手流出、効率化に拍車>
監査法人ではコロナ流行期に、企業の拠点を訪問する「往査」の頻度が激減。その後、現在では「リモートと実地を組み合わせたハイブリッド型の監査が定着した」(JICPA関係者)という。業界内では「画面越しでは意思疎通がしづらく、確認作業をスムーズに行えない場合がある。会社の雰囲気の変化にも気が付きにくい」との声もあるが、それでもリモート化が普及するのは、会計士の人手不足が深刻化しているからだ。
多くの若手が賃上げを進める事業会社に流出。働き方改革による労働時間の制限も加わり、業務の効率性を重視する風潮が強まっている。
こうした中、大手監査法人が契約先を選別する動きもあり、中小の監査法人のシェアが増している。すでに上場企業のうち2割超が中小法人と契約しているが、監査品質にバラつきが目立つとの指摘が少なくない。金融庁は今年1月、アスカ監査法人に対し、新規契約の締結を6カ月間禁じる業務停止処分を出した。監査調書の組織的な改ざんや、必要な監査証拠を入手しないまま手続きを終えたケースが確認されたためだ。
大規模な粉飾決算が判明したオルツの監査を担当したのは、中小法人のシドー。オルツが昨年10月に新規上場した際に開示した決算数値はその多くが虚偽だったとされ、経営陣だけでなく監査法人の責任を問う意見が出ている。
国内企業の会計の信頼性に疑念が広がれば、外国人投資家の日本株離れが進みかねない。不正調査を手がける会計系コンサルティング会社の幹部は、監査のリモート化をふまえて「AIをはじめとしたデジタル技術などを活用し、粉飾の兆候を早期に察知する仕組みづくりが急務だ」と警鐘を鳴らした。
(小川悠介 編集:橋本浩)