ニュース速報
ビジネス

アングル:香港へ向かう中国富裕層マネー、制度緩和で加速

2024年06月22日(土)08時14分

中国の富裕層が、香港の保険商品や定期預金への投資を急増させている。本土の経済と不動産セクターの低迷や、人民元相場の下落から財産を守るのが狙いだ。写真は香港で2023年10月撮影(2024年 ロイター/Tyrone Siu)

Xie Yu

[香港 17日 ロイター] - 中国の富裕層が、香港の保険商品や定期預金への投資を急増させている。本土の経済と不動産セクターの低迷や、人民元相場の下落から財産を守るのが狙いだ。

この傾向は昨年から顕著だったが、中国が2月に「クロスボーダー・ウェルス・マネジメント・コネクト(越境理財通)」制度の投資枠を拡大したことで、ここ数カ月は加速している。

香港の金融機関は、この機を逃すまいと奔走。民主化運動や中国の統制強化、地政学的な緊張によって失墜した香港の金融センターとしての地位を蘇らせる一助になりそうだ。

HSBCの香港幹部、マギー・Ng氏は「中国には富裕層が約4500万人おり、海外投資や教育、自己防衛策をますます求めるようになっている」とし、「中国本土以外での資産運用需要は増えている」と語った。

2021年末に導入された越境理財通は、香港と隣接する南部広東省の9都市の住民に、香港とマカオの銀行が販売する投資商品の購入を認めるもの。同様に、香港とマカオの住民も中国本土に投資できる。

中国人民銀行(中央銀行)のデータによると、この制度を使った中国本土投資家による香港およびマカオへの投資は3月に130億元(18億ドル)と、2月の8倍近くに膨らみ、月間最高記録となった。

さらに4月は前月比70.5%増の223億元となった。一方、香港とマカオの住民による中国本土への投資はわずか1400万元で、制度導入時からほぼ変わっていない。  

HSBCでは昨年、香港での新規口座開設が新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年に比べて3倍以上に増えた。Ng氏によると、中国本土の富裕層が中心で、今年第1・四半期も勢いは続いた。

資産運用会社の幹部らによると、一般的な富裕層だけでなく、中国と東南アジアの超富裕層も香港で投資を目論んでいる。UBSのアジア太平洋資産運用幹部、L・H・コー氏は「昨年は(潜在的なファミリーオフィス顧客からの)問い合わせが前年比で約85%増えた」と述べた。

問い合わせの60%以上は、香港にファミリーオフィスのような法人を設立することに関するもので、主に中国の顧客だという。

<現金を持て余す>

中国は依然として資本統制が厳しく、個人は年間5万ドルまでしか送金が認められていない。しかし2月に越境理財通の投資枠が従来の3倍の300万元に拡大されたことで、香港への資金流入に拍車がかかった。

業界幹部らによると、香港の資産運用会社は当局に対し、制度をさらに緩和するよう働きかけている。

香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)はロイターへの声明で、「業界からのフィードバックを適切に考慮し、必要に応じて追加的な促進策を検討し続けていく」と表明した。

香港の一部銀行は流れに乗ろうと、越境理財通の一環として年利最大10%の定期預金の提供を始めた。中国本土の銀行では、定期預金の利率は2%前後だ。

香港の保険会社も本土顧客からの需要が急増している。

一方、中国本土では貯蓄の選択肢が限られ、長期債の利回りは過去最低水準に下がっている。人民元相場は2008年以来の最低水準で推移し、株式と不動産のリターンも低落した。

深センでインターネット企業を経営するワンさん(51)は「本土の多くの人々はキャッシュを持て余している」と語る。ワンさんは昨年末、本土の怪しい投資商品で大損を被ってから当座預金に現金を遊ばせたままだが、今は越境理財通について勉強中だという。 

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中