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焦点:植田日銀に異なる期待、副作用にどう言及 YCCアタック継続も

2023年02月22日(水)16時22分

 2月22日、 植田和男・次期日銀総裁候補の所信聴取では、長引く金融緩和の副作用にどう言及するかが焦点となる。日銀本店で1月撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)

[東京 22日 ロイター] - 植田和男・次期日銀総裁候補の所信聴取では、長引く金融緩和の副作用にどう言及するかが焦点となる。政権与党や市場には黒田緩和の継続期待がある一方、新体制発足に先立ち醸成された緩和修正への期待感もある。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を巡り、上限を試すYCCアタックを断ちきれるかは見通せない。

<緩和継続のメッセージ>

所信聴取に先立つ10日、植田候補は「現在の日銀の政策は適切で、当面は金融緩和の継続が必要」と記者団に述べた。日銀審議委員だった2000年8月に速水優総裁(当時)が主導したゼロ金利解除に反対票を投じた経緯もあり、「拙速な正常化に慎重な候補者としてのメッセージ性は抜群」と複数の政府関係者は語る。

    市場関係者からも、衆参両院での所信聴取では「緩和継続の必要性を改めて示し、市場に衝撃を与えるような言及は避けるだろう」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミスト)との声が聞かれる。

    もっとも副作用を無視した政策運営にもリスクが伴う。植田氏自身も22年7月に掲載された日本経済新聞の「経済教室」で、持続的な物価2%目標の実現可能性が高まれば「投機はより大規模に何度も発生すると予想される」と指摘している。

    <長期金利上限超え、変動幅拡大は>

    債券市場では、著しく低下した機能度回復に向けた修正期待が高まっている。足元では長期金利が日銀の許容変動幅の上限を上回る0.505%で推移。植田氏が現在の0.5%の上限を0.75%や1%に再拡大する選択肢を残すかが注目される。

YCCを巡って植田氏は「金利上限を小幅に引き上げれば、次の引き上げが予想されて一段と大量の国債売りを招く可能性がある」と懸念を示している。変動幅の再拡大のほか、10年物としている金利コントロールターゲットの短期化も取りざたされているが、時期や手法について「(市場に)明確なコンセンサスがあるわけではない」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)。

    「金融緩和を継続することがYCCを修正しないということではない。所信聴取の段階で具体策に踏み込むことは考えにくく、YCCアタックが収まることは当面期待できない」と、前出の上野氏はみている。

    <物価観も踏襲か>

マイナス金利撤廃も含めた将来的な出口戦略との距離をはかるうえでは、物価動向に対する見解も関心を集めそうだ。ロイターの集計によると、総務省が24日発表する1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)は前年比プラス4.2%と、1981年9月以来の伸び率が予想される。

    もっとも2月以降は「政府の物価高対策による電気代などへの補助金効果で、前年比のプラス幅は縮小しそう」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平・副主任研究員)とされ、海外景気の減速なども背景に年後半にかけ先高観は乏しい。

    今のところは「新体制が始まっても、足元の物価上昇率の上振れは一時的で、2%の物価目標達成は見えていないとの認識は変わらない」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との見方が多い。

出口に向けた政策修正の前提としては、物価だけでなく、経済の情勢をどう見るかも、今後の政策を見通す上で重要な点となる。

衆院は24日午前9時半から議院運営委員会で植田候補に対する所信聴取と質疑を行う。副総裁候補となった氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事の所信も同日午後にただす。参院は27、28両日での聴取が予定される。

衆参での所信聴取後、両院の本会議で過半数の賛成を得て承認されれば、内閣が正副総裁3氏を正式に任命する。国会筋によると、承認は3月上旬になるとみられる。

*〔情報BOX〕日銀の現行政策と植田総裁候補の所信聴取の注目点は もご覧ください。

(山口貴也 編集:石田仁志)

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