ニュース速報

ビジネス

焦点:景気悪化で中国企業が採用抑制、学生は公務員に殺到

2022年12月02日(金)18時09分

 12月2日、中国最高峰の大学、北京大学で物理学を学ぶリン・ラウさんは、国内の大手民間企業が夏にキャンパスで人材探しをするだろうと思っていた。しかし、中国の成長率は過去数十年間で最低となり、採用担当者の多くが今年はキャンパスに現れなかった。写真は北京のビジネス街で11月21日撮影(2022年 ロイター/Tingshu Wang)

[北京 2日 ロイター] - 中国最高峰の大学、北京大学で物理学を学ぶリン・ラウさんは、国内の大手民間企業が夏にキャンパスで人材探しをするだろうと思っていた。しかし、中国の成長率は過去数十年間で最低となり、採用担当者の多くが今年はキャンパスに現れなかった。

「無難な」公務員になって欲しいというラウさんの両親の願いが、にわかに現実味を帯びてきた。

「先輩たちは去年のこの時期に、すでに大企業から内定をもらっていたけれど、同じ企業が今年は様子を見ているだけのようだ」と、ラウさんは落胆を隠さない。

国営メディアによると、中国では全国で260万人余りが公務員試験の受験を申し込んでおり、中央政府で3万7000件、省や都市で計数万件の職を求めて争っている。

ゼロコロナ政策を採用する中国では、景気低迷が風土病のように長期化する兆しを見せている。一部の都市は財政難から賃下げに踏み切ったが、公務員職に対して記録的な関心が寄せられている。国営通信の新華社によると、公務員は1つの求人に対する応募が平均70人で、中には応募が6000人に達した例もある。

ハイテク、金融、個別指導教育などの民間企業は数万人を解雇し、今年は若者の失業率が過去最高の20%となった。

来年の大学卒業予定者数は1160万人で、これはベルギーの全人口に匹敵する。

共産党は中国が過去40年間で驚異的な繁栄を遂げたと誇り、権力の独占を正当化するが、大学新卒者に職を与えることは最大の課題の1つだ。

ナティクシスのアジア太平洋首席エコノミスト、アリシア・ガルシアヘレロ氏は、公務員への就職希望が急増していると指摘。「理由は明白で、景況観の悪化と将来への不安だ」と指摘した。

中国経済は新型コロナ封じ込めのロックダウン、不動産市場の低迷、輸出の不振で打撃を受け、民間企業の従業員は長時間労働と多くのストレスを抱え、労働環境が厳しさを増す。

そのような状況下、若者らはソーシャルメディア上で公務員を、最も安全な場所という意味を込めて「宇宙の果て」と呼ぶ。

一方、12月3─4日に予定されていた公務員試験はコロナの影響で延期された。だが、新しい日程はまだ発表されておらず、受験者はストレスを募らせている。

<財政逼迫>

中国の公務員職は、試験の高得点獲得者が社会のはしごを上る確実な方法として、何千年も前から希望者が多かった。今日、自分の子どもが国営企業や公務員に就職するのは家族にとって誇りとなっている。

公務員の年間給与は平均10万元(1万4000ドル)余りだが、沿岸部の大都市ではこの3、4倍のこともある。給与は民間企業の同じような職種よりはるかに高い場合が多く、しかも住宅補助など福利厚生も手厚い傾向がある。

少なくとも6人の公務員の証言といくつかの地元メディアの報道によると、広東省、江蘇省、浙江省、福建省などいくつかの省の市政府が今年、給与を最大で3分の1ほど引き下げたが、それでもこうした恵まれた条件が公務員職の人気を支えている。

国家公務員の給与削減が、全国でどれほど広がっているかは不明。だが、不動産不況とコロナ対策費で財政が打撃を受けた地方政府は今年、1兆ドルの財源不足に悩まされている。

広州市関係者の1人は、公務員の給与削減ぶりについて「今年は過去10年間で最悪かもしれないが、今後10年間では最良かもしれない」と話した。

<最良の選択>

福建省の検察庁で働くジャネ・カンさんは、年間で11万─12万元の給与が今年は10─15%減ると明かした。状況改善の選択肢は限られるという。

「国を出ることができないなら、制度の中にとどまるしかない」とカンさん。「制度内で働けば、制度外で働く普通の人よりも雇用の安定性は高い」とあきらめ顔だ。

広州に住む法学部の学生のチェンさん(25)は、給与の削減や抑制を承知の上で、国家公務員になることが最良の選択だと断言、試験のために1日に6─8時間勉強に励む。

「現在の労働市場の状況を見て、公務員になりたいという気持ちが強くなったのは間違いない」と述べた。

(Eduardo Baptista記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中