ニュース速報

ビジネス

インタビュー:年度後半に金融政策「微修正」も、経済物価の強さ条件=前田元日銀理事

2022年07月05日(火)15時56分

 7月5日、元日銀理事の前田氏は、経済が強く物価も一段と上昇して賃上げ見通しの確実性が高まれば、今年度後半にも日銀が金融政策を「微修正」する可能性があると述べた。写真は都内で2012年3月撮影(2022年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 5日 ロイター] - 元日銀理事の前田栄治氏(ちばぎん総合研究所社長)は5日、ロイターのインタビューで、経済が強く物価も一段と上昇して賃上げ見通しの確実性が高まれば、今年度後半にも日銀が金融政策を「微修正」する可能性があると述べた。10年金利の許容変動幅拡大やイールドカーブ・コントロール(YCC)誘導対象の10年債から5年債への短期化に取り組むべきだという。ただ、日銀の金融緩和自体は微修正後も継続すると話した。

<表面化するYCCの歪み>

前田氏は世界的な物価高が「日本の金融政策の歪みを顕わにした」と指摘する。海外の金利上昇で日本の国債金利にも上昇圧力が波及する中、日銀は10年物国債金利を許容変動幅の上限0.25%で抑制するため、連続指し値オペを原則毎営業日実施するなど積極的な国債買い入れを行っている。

前田氏は「10年金利をスムーズにコントロールすることはなかなか容易ではない」と話す。「日銀はYCCで長期金利を抑えれば景気も物価も良くなって2%目標に近づいていくと説明してきたが、今は実質金利低下の効果が為替に全部表われている印象がある」とした。

YCCは2016年、超長期金利まで下がりすぎるマイナス金利政策の「副作用」への対策として導入された。前田氏は、現在では国内外の金利に上昇圧力が加わっており、超長期金利の過度な低下リスクに対応する必要はないと指摘。同年に導入されたマイナス金利も、円高を起点に物価上昇の勢いが失われることへの警戒感が背景にあったが「今はそういう環境ではない」とした。

今すぐの変更は適切ではないが「YCCもマイナス金利も必要がなくなっているのではないか」と語った。

<操作対象の短期化を、10年債は「買い入れで歪み」>

前田氏は経済・物価の条件が整ってくれば「どこかで政策の微修正が必要になる」とし、黒田東彦総裁の下でも「年度後半に金融緩和を微修正する可能性がある」と述べた。

長期金利の許容変動幅をただちに拡大すべきではないが「もう少し動いてもいいのではないか」とみる。10年金利が0.25%を超えても「急に非線形に経済に悪影響が出るというより、影響はグラジュアルに出るだろう」と話し、「長期金利の固定で為替が変動しており、トータルで長期金利の変動を抑制することが本当に経済にプラスなのか、議論の余地が出てきている」と語った。

日銀は16年の「総括検証」以降、経済・物価への影響が大きいのは短期、中期の金利だと分析してきた。前田氏はYCC修正の例として「金利ゼロは維持しつつ、操作対象を短期化することが、緩和効果を維持しながら市場機能の改善、ひいては過度な為替の変動抑制に一定の効果を持つはずだ」と述べた。

「10年債は日銀の買い入れで歪んでおり、理論上は短い方がコントロールしやすい」とし、誘導対象を5年にしても「何か問題があるかと言えば、そうでもない。10年債は本来的には市場形成に任せた方がいい」とも話した。

日銀の積極的な国債買い入れで、国債発行残高に占める日銀の6月末の保有比率は50%を超えた。

もっとも、前田氏は政策の微修正には経済の強さや物価のさらなる上昇が必要だと強調。「(誘導対象を)短くすると10年金利の変動が大きくなる。変動が大きくなっても耐え得る経済が必要だ」と述べた。物価については「円安が1つの要因となって、コアCPIの上昇率が3%に上がっていく状況になればインフレ期待も変わってくると思うし、来年の賃上げにもかなり影響してくると思う」とした。

<マイルドなインフレは世界的に継続、日本は2%定着遠く>

前田氏は、ウクライナ危機を受けたサプライチェーンの見直しや各国財政支出の拡大、グリーンフレ―ション(気候変動対策に伴う物価上昇)により、「世界的に向こう数年間はマイルドなインフレが続く」とみる。ただ、輸出入物価や為替を通じて日本のインフレもある程度は高まるものの「2%定着には時間が掛かる」とし、「日銀の政策運営は、修正後もかなり緩和的な状態が続く」と語った。

前田氏は2016年5月から20年5月まで日銀の理事を務めた。18年3月以降は、金融政策の企画・立案を担当する企画局を担当した。

(和田崇彦、木原麗花 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏レミー・コアントロー、1─3月売上高が予想上回る

ビジネス

ドルは156.56円までさらに上昇、日銀総裁会見中

ビジネス

午後3時のドルは一時156.21円、34年ぶり高値

ビジネス

日経平均は反発、日銀現状維持で一段高 連休前に伸び
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中