ニュース速報

ビジネス

焦点:今年の株主提案は環境が「主役」か、鍵握る資産運用大手

2021年02月27日(土)08時10分

 3月から本格化する今年の株主総会シーズンでは株主提案の大半を気候変動関連が占める見通しで、流れが変わりそうだ。写真はダラスで2019年5月、エクソン・モービルの気候関連方針に抗議するため、同社株主総会会場の周辺で行われたデモ(2021年 ロイター/Jennifer Hiller)

[ロンドン/ボストン 24日 ロイター] - これまで企業の年次株主総会で環境問題に絡む株主提案が出されることはまれで、提案があってもあっさりと否決されていた。しかし、3月から本格化する今年の株主総会シーズンでは株主提案の大半を気候変動関連が占める見通しで、流れが変わりそうだ。

ロイターが「物言う投資家(アクティビスト)」や資産運用会社など十数社に取材したところ、今年の株主総会では、環境関連の株主提案が大手資産運用会社からこれまでよりも多くの支持を勝ち得る公算が大きいことが分かった。資産運用会社は社会の低炭素化に向けた、実効性のあるプランを求めている

サステナブル・インベストメンツ・インスティテュートがまとめたデータによると、米国で提出された気候変動関連の株主提案は年初来で79件。昨年は通年で72件、2019年は67件だった。今年全体では90件に達する可能性があるという。

株主提案は温室効果ガスの排出量削減、環境汚染についての報告、気候変動が事業に与える影響の評価などを求めている。

石油、運輸から食品・飲料など幅広い業種が標的となっており、企業側は2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す政府の目標に沿う形で、今後数年間に排出量を削減する具体策を示すよう要求されている。

英国のヘッジファンドマネジャーで富豪のクリス・ホーン氏は「短期的な目標を含む、信頼できるプランのないまま2050年の実質ゼロ目標を掲げるのは欺まんだ。株主は企業に説明責任を負わせるべきだ」と述べた。

多くの企業は、気候変動問題について既に多くの情報を提供していると釈明している。しかし、物言う投資家の間からは、今年は歩み寄りに前向きな経営幹部が増える兆しが見える、との声が上がっている。

ロイヤル・ダッチ・シェルは2月、石油大手として初めて、50年までに温室効果ガスの排出をゼロにする自社計画について株主の諮問投票を行うと表明。これに先立ち、スペインの空港運営会社・アエナ、英国のユニリーバ、米ムーディーズなども同様の投票を発表している。

株主総会決議の大半は拘束力を持たないが、賛成率が30%強程度でも、企業は対応に動くことが多い。

株主総会対応などを手掛けるジョージソンのダニエレ・ビタレ氏は「情報開示の拡大や目標設定に対する要求は、昨年よりもずっと強い」と述べた。

<企業は目標設定に消極的>

2015年に採択された地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」で設定された目標にならい、2050年の排出実質ゼロ目標を打ち出す企業は増えている。だが、中期的な目標を設けている企業はほとんどない。コンサルタント会社・サウスポールがさまざまなセクターを対象に実施した調査によると、中期目標を設定していたのは120社のうち10%に過ぎなかった。

スイスの銀行、サフラ・サラシンのデータ分析によると、MSCI世界株価指数を構成する約1500社の排出率が下がらなければ、世界の気温は2050年までに摂氏3度以上上昇する。パリ協定は50年までの気温上昇を2度未満、可能であれば1.5度未満に抑えることを目標としている。

調査では、業界によって排出量に大きな差があることが分かった。例えば、各企業の排出量がエネルギーセクターと同じ水準なら気温上昇は5.8度となる。原材料セクター並みなら5.5度、一般消費財メーカー並みなら4.7度だ。

<気候変動への取り組みに追い風>

排出量の多いセクターは明確なプランを提示するよう、投資家から最も強く圧力を受けることになりそうだ。

米エクソン・モービルは今年1月、排出量を算出する国際基準「スコープ3」に基づく排出量を公表。これを受け、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は情報開示を求める株主提案を取り下げた。

カルパースのコーポレートガバナンス部門を率いるシミソ・ヌジマ氏は、気候変動問題にとって今年は見通しが明るく、他の企業も物言う投資家と合意に至る可能性が大きいと指摘。「気候変動問題に追い風が吹いている」と話した。

<鍵握る資産運用大手>

大株主は影響力が大きいことから、物言う投資家は資産運用世界最大手・ブラックロックが、この問題で取り組みを強めることを期待している。ブラックロックは運用資産が8兆7000億ドルで、気候変動問題に厳しい態度で臨むと約束している。

ブラックロックは先に投資先企業に対して、温室効果ガス排出に関するデータの開示や排出削減の厳しい短期目標の設定を求め、こうした取り組みが不十分な場合は、株主総会で取締役提案に反対票を投じる可能性があると呼びかけた。

欧州の資産運用大手・アムンディも最近、株主提案への支持を拡大すると発表した。

<いずれ戦いに>

ヘッジファンドマネジャーのホーン氏は、企業の年次株主総会の決議を通じて気候変動問題の進捗状況を判断する、恒常的な仕組みの設置を目標に据えている。

上場企業に気候変動プランの情報開示を迫る国際キャンペーン「セイ・オン・クライメート」では、投資家が企業に対し、短期目標など実質ゼロ計画の詳細を示し、年次株主総会で拘束力のない決議に諮るよう求めている。企業の対応が満足の行くものではなかった場合、投資家はより強い態度に出て、取締役会の提案に反対票を投じるという。

早くもこうした流れに弾みが付いていること示す兆しが表れている。

ホーン氏は自分のヘッジファンドを通じて、少なくとも7件の株主提案を出した。ホーン氏が設立した「チルドレンズ・インベストメント・ファンド・ファウンデーション」は他の団体や資産運用会社と協力し、欧米やカナダ、日本、オーストラリアで今後2年間の株主総会に100件以上の株主提案を提出する取り組みを進めている。

ホーン氏は昨年11月に年金基金や保険会社に対して「もちろん、すべての企業がセイ・オン・クライメートを支持することはないだろう。戦いになるが、われわれは投票で勝つことができる」と述べた。

(Simon Jessop記者、Matthew Green記者、Ross Kerber記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ人道危機報告、バイデン政権高官に届かず 米大使

ワールド

日韓防衛相、協力強化で合意 横須賀で会談

ビジネス

金利上昇を注視、機動対応にはまだ距離 買い入れ減額

ビジネス

野村HD、10-12月期純利益は一時費用で10%減
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 10
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中