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情報BOX:先頭を走る中国のデジタル人民元、仕組みと狙い

2020年10月21日(水)07時25分

 中国政府は18日、中国人民銀行(中央銀行)が後ろ盾のデジタル人民元のプロジェクトとしてかつてない規模の実証実験を終えた。写真はデジタル人民元の公式アプリの画面。16日撮影(2020年 ロイター/Florence Lo)

Alun John

[香港 19日 ロイター] - 中国政府は18日、中国人民銀行(中央銀行)が後ろ盾のデジタル人民元のプロジェクトとしてかつてない規模の実証実験を終えた。アナリストは、この実験プロジェクトにより、中国が中銀デジタル通貨(CBDC)の世界的競争でリードしたと位置付ける。

実験では人民銀が抽選で消費者5万人に1人当たり200元(約3150円)が入ったデジタルウオレットを「お年玉」のように配布した。

中国のデジタル人民元の取り組みについてまとめた。

<実証実験の経緯>

デジタル人民元は世界各地で進められている中銀デジタル通貨の中ではたぶん、最も先端を行っている。

人民銀を含む各中央銀行は、暗号資産(仮想通貨)のビットコインや、フェイスブックの「リブラ」のような民間のデジタル通貨プロジェクトを警戒している。こうした仮想通貨や民間デジタル通貨が影響力を増し、資金の流れを中銀が管理するのを制限するのではとの懸念だ。

人民銀は2014年からデジタル人民元の計画を進めてきたが、昨年まで詳細をほとんど明らかにしていなかった。正式導入の日程の見通しなど重要な事柄は依然として公表されていない。

一連の実証実験では、その中でも最も名高いのは今月に広東省深圳市で実施された実験だが、品物の支払いをする際に現場で使えることが示された。

配車サービスの滴滴出行やネット出前サービスの美団点評など日常生活で使われるアプリも実験に参加した。

<デジタル人民元の仕組み>

ユーザーの立場からすれば、アント・グループの電子決済サービス「アリペイ(支付宝)」や騰訊控股(テンセント)の「ウィーチャットペイ(微信支付)」のような、既存の商業デジタル決済手段と似て見える。ユーザーは、資金をしまっておけるデジタルウオレットをダウンロードする。その際、QRコードが作られ、これによって店舗の決済端末から読み取れるようになる。

しかし、デジタル人民元のシステムは既存のデジタル決済手段よりも複雑だ。銀行口座に長く置かれる預金ではなく、硬貨や紙幣など流通性の現金と取って代わるように設計されているからだ。

商業銀行もデジタル通貨の配布でユーザーに対する役割を持つ。そのためには配布するデジタル人民元と同量の準備金を人民銀に預ける必要がある。

デジタル人民元を配布するこうした商業銀行と人民銀は、データベースを運用し、ユーザー間のデジタル人民銀の流れを追跡するデータベースを保管する。貨幣や紙幣ではこれほど効果的に追跡はできない。

ビットコインなどの仮想通貨と異なり、デジタル人民元はブロックチェーン、即ち取引の認証に銀行を必要としない分散型台帳技術は使わない。

<想定される効果>

デジタル人民元が普及すれば、中国の政策担当者は中国経済を回る資金の流れをより把握できるようになる。これはマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金といった違法な資金の流れを追跡するのに役立つ。特定の所得層や地域や集団を狙った金融政策面の介入の実験もしやすくなる。

経済情勢が逼迫した際には、現金にマイナス金利を付与することもできるようになる。

中国はずっと前から人民元の国際化を目指している。いずれはデジタル人民元がこの目的を助け、中国以外の国のユーザーが人民元を使うのを促しやすくするかもしれない。

ロイター
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