ニュース速報

ビジネス

情報BOX:米債市場で逆イールド復活、今さら聞けない定義と意味

2020年01月29日(水)16時36分

 1月28日、米国債の価格が今週に入って急騰したため、イールドカーブの一部で長短逆転(逆イールド)が発生した。これは伝統的に米経済にとって、弱気のシグナルとされる。写真は2019年、ニューヨーク株式市場で撮影(2020年 ロイター/Lucas Jackson)

[ニューヨーク 28日 ロイター] - 米国債の価格が今週に入って急騰したため、イールドカーブの一部で長短逆転(逆イールド)が発生した。これは伝統的に米経済にとって、弱気のシグナルとされる。

2年債と5年債の利回りが27日、昨年12月以降で初めて逆転。28日には昨年10月以来となる3カ月物政府短期証券(Tビル)と10年債の逆イールドが見られた。

長期債の利回り低下は、中国発の新型コロナウィルスの感染拡大による経済的な悪影響を懸念した投資家が、安全資産に資金を移動させたため。昨年12月、米中が貿易協議の「第1段階」合意に達し、世界の経済成長と物価は上向くとの楽観ムードが年明けに生じていたが、水を差されたと言える。

3カ月物Tビルと10年債の利回り差は注目度が高い。これまで逆イールド化はずっと、その1-2年後に景気後退(リセッション)が起きるという信頼できる先行指標になってきたからだ。2007-09年の世界金融危機以後に逆イールドが生じたのは、昨年3月が初めてだった。

もっとも逆イールドに続いてリセッションが到来するとしても、タイミング自体は分からない。世界的な金融緩和政策のおかげで、景気の落ち込みが顕現化する時期が先延ばしされる可能性もある。

また、一部のアナリストは、大半がマイナス利回りとなっている欧州や日本の国債に比べて米国債に投資妙味があることが、そうした条件がない場合よりも米長期債利回りを低水準にとどめる役割を果たしており、逆イールドのリセッションのシグナルとしての正確性を弱めていると指摘する。

イールドカーブを巡る基本的な知識を以下にまとめた。

◎米国債のイールドカーブとは何か

イールドカーブとは、1カ月から30年まで、あらゆる期間の米国債の利回りの分布をつないだ線で、通常のケースでは右肩上がりになる。長期債の方が、投資家が要求するリスクプレミアムが大きくなるからだ。

短期ゾーンよりも長期ゾーンの利回りが相当高い状態を「スティープ化」と呼ぶ。つまり2年債と30年債の利回り差(スプレッド)は非常に大きくなる。一方、長短スプレッドが小さい状態は「フラット化」で、例えば3年債と10年債の利回りもわずかな違いしか見られない。

◎逆イールド化とは

めったにないケースとして、イールドカーブの一部もしくは全体が右肩上がりでなくなる。長短利回り逆転(逆イールド)の発生だ。専門家や市場関係者によって、イールドカーブの注目部分は異なるものの、どの部分の逆イールドも、将来の経済成長が弱まるとの見通しを反映している点は共通する。

昨年3月には3カ月物Tビルが約12年ぶりに、10年債利回りを上回る現象が起きた。10月以降は、今週28日に一時逆イールド化した局面を除けば、スプレッドはプラスで推移している。

やはりリセッションの手掛かりとして注視される2年債と10年債のスプレッドは昨年8月、07年以来となるマイナスに沈んだ。9月初めからは、プラスを維持している。

◎なぜ逆イールドに重大な意味があるのか  

逆イールドは、リセッションが迫っていると知らせてくれる昔ながらの指標だからだ。米国債のイールドカーブは過去50年間、各リセッションの前に逆イールドになっている。シグナルとして間違っていたのは、たった1回しかない。

短期ゾーンの利回りが長期ゾーンより高くなるのは、短期の借り入れコストが長期を上回ることを意味する。そうした環境では、企業は操業コストが割高になったと判断し、経営陣が投資を抑制するか棚上げする。消費者の借り入れコストも上がるため、米国内総生産(GDP)の3分の2超を占める個人消費は減速してしまう。

そして最終的に経済が縮小し、失業者が増える。

◎逆イールドが起きる理由は

短期ゾーンの国債は、米連邦準備理事会(FRB)などの中央銀行が決める政策金利の動きに対する感応度が大きい。

長期債は、投資家の物価見通しにより大きく影響される。債券保有者にとってインフレは忌み嫌うべき要素だからだ。

つまり18年までの3年間のようにFRBが利上げすると、短期債利回りが押し上げられる。そうすると借り入れコスト上昇が経済活動の足を引っ張ると見込まれるので、将来のインフレ予想が抑え込まれ、投資家は長期債が比較的低い利回りにとどまる事態を積極的に受け入れる。それが足元の状況だ。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ東部で幼児含む7人死亡、ロシアがミサイル

ビジネス

カンタス航空、コロナ禍中の解雇巡り罰金 豪労働訴訟

ビジネス

焦点:ジャクソンホールに臨むパウエル議長、インフレ

ワールド

台湾は内政問題、中国がトランプ氏の発言に反論
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中