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アングル:金融機関「配慮」の利上げに距離、プルーデンス対応優先

2018年11月05日(月)18時30分

 11月5日、黒田東彦日銀総裁(写真)は、金融緩和の長期化で本業収益の減少が続く地域金融機関に関連し、その経営に配慮した金利修正には距離を置く姿勢を示した。地域の人口・企業数の減少という大きな構造問題が横たわっている中で、統合・合併を含む金融機関の新たなビジネスモデル構築の努力や、モニタリング・考査などプルーデンス政策での対応を優先すべきとの立場を鮮明にした。日銀本店で10月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

[東京 5日 ロイター] - 黒田東彦日銀総裁は5日、金融緩和の長期化で本業収益の減少が続く地域金融機関に関連し、その経営に配慮した金利修正には距離を置く姿勢を示した。地域の人口・企業数の減少という大きな構造問題が横たわっている中で、統合・合併を含む金融機関の新たなビジネスモデル構築の努力や、モニタリング・考査などプルーデンス政策での対応を優先すべきとの立場を鮮明にした。

黒田総裁が昨年11月、過度の金利低下が「預貸金利ざやの縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転する可能性」があるとする「リバーサル・レート議論」に言及して以降、市場では日銀が金融機関経営に配慮した金利調整にいずれ踏み切るという思惑が消えない。

日銀が10月22日に公表した金融システムの現状と展望をまとめた「金融システムリポート」でも、低金利の長期化などが金融機関収益に及ぼしている影響が、時間の経過とともに累積している実情が浮かび上がった。

これに対して黒田総裁は、超低金利の長期化が金融機関の利ざや縮小を通じて「金融システムの安定性や金融仲介機能に影響を与える可能性があることは、十分に認識している」としながら、そうしたリスクが顕在化する時間軸は「(今後)5年、10年、15年というかなり長期の話だ」と強調。

同時に金融機関収益に配慮した利上げは「今の状況ではむしろ景気が悪くなり、金融機関にとって決して好ましい状況にならない」と断言し、早期の金利調整に距離を置く姿勢を示した。

さらに地域金融機関にとって重要な課題は、金融機関間の競争激化の背景に、地域の人口・企業数の減少という大きな構造問題が横たわっていることだ。そうした状況の中で日銀が多少の利上げに踏み切っても、激しい競争環境が変わらない中で、貸し出し金利の上昇も限定的にならざるを得ない、との見通しが金融関係者の間でも少なくない。

こうした認識などを踏まえて黒田総裁は、構造問題には「構造的な対応をしていかなければならない」とし、「その中には当然、統合・合併やITを活用した効率化、新たな顧客の開拓やビジネスの開発も必要になる」と、金融機関自身が構造改革に取り組む重要性を強調した。

そのうえで日銀として「考査やモニタリングなどを通じて、最新の状況把握に努めるとともに、必要に応じ、金融機関に具体的な対応を促していく」とプルーデンス政策で対応していく方針を示した。

マイナス金利の解消などをめぐり、日銀への期待感がくすぶっていた金融界にとっては、冷たい「秋風」と感じたかもしれない。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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