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アングル:日本郵政の企業統治に踏み込む金融庁、限度額緩和の動きにくさび
9月26日、金融庁は公表した今事務年度の行政方針で、日本郵政のガバナンス監視に踏み込んだ。低金利の長期化で運用ビジネスが困難になっているゆうちょ銀行の方針と、持ち株会社である日本郵政の戦略に齟齬(そご)が出ているとの警戒感が底流にある。2017年1月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 26日 ロイター] - 金融庁は26日に公表した今事務年度の行政方針で、日本郵政<6178.T>のガバナンス監視に踏み込んだ。低金利の長期化で運用ビジネスが困難になっているゆうちょ銀行<7182.T>の方針と、持ち株会社である日本郵政の戦略に齟齬(そご)が出ているとの警戒感が底流にある。金融庁がガバナンス監視を強めることで、日本郵政の限度額を巡る主張に変化が出るか、収益構造に変化があるかが焦点になりそうだ。
<ガバナンス監視>
ゆうちょ銀行、かんぽ生命<7181.T>の経営方針の実現に向け、(持ち株会社である)日本郵政のガバナンスの発揮状況をモニタリングする――。遠藤俊英・金融庁長官の下で初となる金融行政方針にこの一文が入ったことで、関係者の間に波紋が広がっている。
郵政は、法的には銀行法と保険業法に基づく「金融持ち株会社」で、金融庁の検査・監督権限が及ぶ。しかし、前事務年度の行政方針では持ち株会社である日本郵政のガバナンスへの言及はなく、ゆうちょ銀やかんぽ生命への対処方針は2段落記されている程度だった。
今回の行政方針では、資産運用を高度化し、地域金融機関との連携を進めるゆうちょ銀、民間と競合しない保障重視の商品販売を推進するかんぽ生命、これら金融2社の経営方針を示した上で、その実現のためには「日本郵政のガバナンスの発揮が重要だ」と指摘した。
この間、郵政を取り巻く環境は大きく変わった。郵政民営化委員会は3年に一度の郵政事業の見直しを行い、ゆうちょ銀の預入限度額緩和を検討。日本郵政も通常貯金の限度額撤廃を求めている。しかし、民営化委が想定した3月末の結論取りまとめはできず、決着時期は見通せていない。
待ったを掛けているのは金融庁だ。低金利下で、ゆうちょ銀は困難な資金運用を強いられているにもかかわらず、郵政が通常貯金の限度額撤廃を要望したことに「ガバナンスは機能しているのか」(金融庁関係者)と懸念の声が浮上した。庁内からは「限度額を緩和すれば、一部の郵便局長は貯金集めに動くのではないか。郵政の経営陣はきちんと統制できているのか」(同)との声も出ている。
金融庁は26日、行政方針に関する記者向け説明会で、限度額を巡る議論について、1)ゆうちょ、かんぽの企業価値は向上できるのか、2)利用者の利便性は高まるのか、3)地域金融システムの安定、4)郵政が保有するゆうちょ銀株の売却状況――の4点を踏まえて進めることが必要と指摘。「スタンスは従来から何も変わっていない」(幹部)と述べた。
<郵便局含めた収益構造に変化はあるか>
経営効率化の観点から、郵便局は再編が必要なのではないか――。地銀関係者からは、こうした指摘も出ている。収益力の維持のため、地銀は店舗網や人員配置の再検討を余儀なくされている。しかしその一方で、郵便局網の維持は「政官ともに大前提として譲らず、手を触れようとしない」(同)。金融庁も、個人の資産形成を促す観点から、郵便局をリスクの低い投信販売の拠点として重視する。
18年4―6月期の郵政の連結決算は、当期利益が前年同期比18.2%増の1235億円。ネット通販の普及で物流が好調に推移し、日本郵便が業績をけん引したが、「瞬間風速が強かっただけで、人件費がかさんでいる状況は変わらない」(アナリスト)との指摘も出ている。
金融庁のガバナンス監視で、日本郵便を含めた郵政の収益構造に変化が出るか、郵政の限度額要望が変化するのか。関係者が注目している。
(和田崇彦)